九州大学(九大)は、骨細胞が産生してすい臓からのインスリン分泌を促すペプチド「オステオカルシン」が、食事の摂取に伴って腸管から血液中に分泌される消化管ホルモン「インクレチン」の1種である「GLP-1」の分泌を促すことを、マウスを使った実験で明らかにしたと発表した。

成果は、九大大学院 歯学研究院 口腔細胞工学分野の平田雅人主幹教授と日本学術振興会の溝上顕子特別研究員-RPDらの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、2月20日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

オステオカルシンは49 個のアミノ酸から出来たペプチドで2種類の型を持っており、1種類は「γカルボキシラーゼ」によってカルボキシル化された「Gla型オステオカルシン(GlaOC)」で、オステオカルシンの大部分を占めており、アパタイトと結合して骨中に埋もれている。もう1種類がカルボキシル化を逃れて低(無)カルボキシル化状態の「オステオカルシン(ucOC)」として、わずかな量が存在しており、それが血中を循環し、すい臓β細胞に作用することでインスリンの分泌を促している。

画像1。全身には約200個の骨があり、体を支えている。しかしただ硬いだけでなく、ホルモンを分泌して全身の代謝を活性化する内分泌器官でもある

またオステオカルシンはインスリンが作用する細胞に働きかけて「インスリン感受性」を改善することも知られている。2型糖尿病は、筋肉や脂肪細胞などがインスリンに適切に反応できず、血糖値を下げることができなくなり発症するしてしまう疾病だ。

画像2。オステオカルシンには、GlaOCとucOCの2種類の型がある

また、食事を摂取することによって小腸から分泌される「GLP-1」や「GIP」などの「インクレチン」も、インスリン分泌を促すホルモンと知られているが、この作用は血糖値があるレベル以上でなければ発揮されないため、低血糖発作を起こしにくい糖尿病治療薬として、インクレチンの血中濃度を高める薬剤が注目を集めるようになってきたほか、β細胞の増殖を促したり、胃内容物の排出を抑制したり、食欲を抑えるといった働きもあるため、注目されるようになってきている。

研究グループは今回、ucOCが直接小腸に作用してインスリン分泌を促す経路が存在する可能性があるという仮説を立て研究を進めたという。まずマウスの腸管を調査したところ、小腸内腔の上皮細胞にはucOCの受容体である「GPRC6a」が存在していることが判明。

そこで、マウス小腸上皮細胞由来細胞株の「STC-1細胞」を調べたところ、ucOCによって濃度依存的にGLP-1分泌が促進されることが確認された。ただし、ucOCの濃度が過剰になると分泌は起こらないことも確認されたほか、GlaOCには低濃度でもGLP-1分泌促進作用が認められなかったという。

次に、マウスの腹腔内や静脈内にucOCを注射したところ、血中GLP-1濃度は上昇したが、過剰量の注射は無効であることが示されたほか、GlaOCでは、少量でもそうした効果が認められないことが分かった。また、この結果はSTC-1細胞で調べた結果と同じであったという。

さらにucOCの経口投与を実施したところ、注射と同様に血中GLP-1濃度の上昇が見られたが、注射と異なりGlaOCでもucOCと同様に血中GLP-1濃度の上昇作用が見られたことから、研究グループではGlaOCが、酸性環境下で脱カルボキシル化させることが知られていることから、胃酸による胃内の酸性環境がGlaOCを脱カルボキシル化してucOCに変化させたということが考えられるとしている。

これらの結果はucOCのGLP-1の分泌促進作用を示唆するものと研究グループは説明するが、ucOCにはすい臓β細胞に直接働きかけてインスリン分泌を促す働きがあることから、さらにGLP-1受容体の「アンタゴニスト」(受容体に結合するが、作用を持たないので、本来の相手分子の作用を阻害する分子)である「exendin(9-39)」をマウスに事前投与し、その後GLP-1受容体を遮断した状態でオステオカルシンを投与し、インスリンの分泌を調べたところ、GLP-1受容体を遮断しておくと、ucOCによる血中インスリン濃度の上昇が抑えられていることが確認され、これによりオステオカルシンによるインスリン分泌効果の一部は、小腸から分泌されるGLP-1を介したものであることが示されたとする。

また、実際に投与したオステオカルシンが体内に吸収され、血中オステオカルシン濃度を上昇させていることも確認しており、。特にGlaOCの経口投与ではucOCの血中濃度が上昇していることが確認されており、研究グループでは、これは、口から入ったGlaOCがucOCの形で体内に吸収され、循環することを意味していると説明している。

画像3。今回の研究から骨と腸とすい臓は関係が深いことが判明した

今回の成果は、オステオカルシン(ucOC)が小腸に存在する受容体GPRC6aに作用して腸管から低血糖を起こす危険性の少ないGLP-1の分泌を促し、それによりインスリン分泌を促すことを示すものであり、オステオカルシンを大量に合成するのは困難ながら、無効なGlaOCであっても経口投与すると有効なucOCになることも判明したことから、研究グループでは、GlaOCを含む骨成分を薬品あるいは食品・サプリメントなどとして摂取することで、全身の代謝活性化、ひいては糖尿病をはじめとするメタボリックシンドロームの症状改善につながる可能性があり、応用が期待されるとコメントしている。