産業技術総合研究所(産総研)は2月14日、2012年6月に宮城県亘理郡亘理町、亘理郡山元町、福島県相馬郡新地町、相馬市において、東日本大震災に伴う津波被災地の海水の地下への浸透状況調査に向けた、ヘリコプターを用いた「空中電磁探査」を実施したと発表した。

成果は、産総研 地質情報研究部門 地球物理研究グループの大熊茂雄主任研究員と同・地圏資源環境研究部門 物理探査研究グループの上田匠研究員らの研究グループによるもの。

画像1。空中電磁探査ヘリコプター(出所:産総研Webサイト)

調査地域は、鮮新世の基盤岩類の上に下部砂層、粘土層、上部砂層が順に堆積し、上部砂層中には「不圧地下水」が、下部砂層中には「被圧地下水」が存在しているほか、海岸線に近いため通常でも海水の影響を受け、また沿岸部の地下深部では海水の浸入や海水準変動による化石塩水の存在が知られていたが、現在は東日本大震災の津波による浸水で地下浅部の不圧地下水が塩水化してしまっている。そのため安心して利用できる淡水性地下水を確保するためには、地下水の汚染状況の把握や継続的なモニタリングが求められている。

画像2。今回調査が行われた地域の地下水環境概念図(出所:産総研Webサイト。東北農政局(1980):宮城県および岩手県水文地質図集に加筆修正したもの)

今回は、ヘリコプターによる空中電磁探査により津波被災地(宮城県亘理郡亘理町、亘理郡山元町、福島県相馬郡新地町、相馬市)における海水の地下への浸透状況と、その下層にある淡水性地下水の分布が調査された。

空中電磁探査は、送信器や受信器などの計測装置を「バード」と呼ばれる容器に収納しヘリコプターでえい航し、1次磁場により誘導された地下の渦電流から発生する2次磁場を測定することで、地下の比抵抗構造を調査する物理探査手法で、1次磁場の周波数と地下の比抵抗の組み合わせで探査深度が決定され、周波数が低いほど、また比抵抗が高いほど深部まで調査可能となる(通常は、数10mから100m程度)。

画像3。今回調査した地域(A:仙台平野南部地域、B:松川浦地域)(出所:産総研Webサイト)

今回の調査は時速50kmで飛行。測定は1秒間に10回行われるため、今回の場合、調査測線上では1.4mごとに1回データを測定することができるため、水平空間分解能は数m程度になると研究グループは説明している。

画像4。空中電磁探査概念図

実際の調査では、100m間隔で設定した東西方向の測線上で、5つの周波数(340Hz/1.5kHz/6.9kHz/31kHz/140kHz)の磁場を発生させ、周波数ごとの見掛比抵抗データを得た。その結果、140kHzの見掛比抵抗分布は地下の浅部(深さ0~5m程度)での分布に対応し、仙台平野南部の海岸線付近では4.0Ωm以下と低い比抵抗値を示したが、研究グループではこの値について海岸からの海水の浸入によるものと考えられるとしている。

また、海岸線から内陸側に向かって数km以下の地域では、20Ωm以下の低比抵抗層が広く分布していることが確認されたが、その境界は、津波浸水域の末端部によく一致していることから、津波による海水(比抵抗値0.25Ωm)の浸水で土壌や浅部地層(通常は数10Ωm以上)の比抵抗値が低下したことによるものとする。

松川浦地域の調査結果も同様に、湖岸線より内陸側が4.0Ωm以下の低い比抵抗を示しており、こちらの場合は低比抵抗域の範囲が仙台平野南部より広く、津波による海水が仙台平野南部に比べて、地表に長く滞留していたためではないかとしている。

見掛比抵抗分布図(140kHz)。画像5(左)は、仙台平野南部のもの。赤の太線が津波浸水域の境界を示している。青の細線は水系を示し、A-A'は画像7の断面位置を示している。画像6(右)は福島県松川浦地域の様子(出所:産総研Webサイト)

さらに、仙台平野南部地域の10~20mより深い地下では、2.0~11.0Ωmの低比抵抗層が海岸線付近から内陸に向かって伸びていることが確認されたほか、農業用排水路などでは、さらに深い地下にまで低比抵抗層が認められており、海岸から浸入した海水が農業用排水路を通じて地下へ浸透したことが考えられると指摘するも、これらの低比抵抗層に囲まれて相対的に高い比抵抗の層も認められており、これら高比抵抗層の分布域に淡水性地下水が存在している可能性があるとする。

画像7。仙台平野南部地域の見掛比抵抗東西断面図の例(縦横比20:1)断面図の白い部分は、送信信号が届かず調査できていない部分(出所:産総研Webサイト)

なお今回の調査地域では、より深部の比抵抗層の構造を明らかにすることを目的に地上でも電磁探査や高密度電気探査などを実施していることから、今後は、空中電磁探査による見掛比抵抗分布のさらなる解析に加え、地上観測のデータとの比較検討を図っていくほか、ボーリングによって浅部の水源として利用できる淡水性地下水が実際に存在するかなどの確認を行っていく予定としている。