産業技術総合研究所(産総研)は12月25日、ダイヤモンド半導体を用いた1A級の出力が可能なパワーエレクトロニクス用ダイオード整流素子を作製し、250℃でのスイッチング性能を測定し、高速・低損失動作を確認したと発表した。

成果は、同ダイヤモンド研究ラボの鹿田真一 研究ラボ長、梅沢仁 主任研究員らによるもの。研究開発は、大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻の舟木剛 教授と共同で行われた。詳細は、電子情報通信学会の学術誌「Electronics Express」にオンライン掲載された。また、2013年1月30日~2月1日に東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2013 第12回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」にて発表される。

試作したダイヤモンドダイオード整流素子

パワーデバイスは、電気機器に不可欠な電力制御を行う半導体デバイスであり、インバータの普及に不可欠な省エネルギー技術の基幹構成要素となっている。最近では、高電圧・大電流動作できるパワーデバイスが作製可能になり、ハイブリッド自動車のモータ駆動にも使われるなど急速に普及しており、大きな市場となることが期待されている。また、パワーデバイスの高性能化による電力使用量の削減は、CO2排出量の削減に向け経済産業省が策定した「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」でも、重点的に取り組むべきエネルギー革新技術の1つとされている。

しかし、現在パワーデバイスに使われているシリコン(Si)半導体は、耐熱、耐電圧、電力損失、電流密度などに課題があることから、次世代パワーデバイス向けにSiCやGaNなどの材料の開発が進められている。ダイヤモンドはこれらの新材料を越える性能を持つ材料で、それ自体が熱を伝達する熱拡散材料であり、高耐電圧、高温動作など、特異な物性を有することから、冷却系が不要な、高耐電圧、大電流密度のパワーデバイスが実現できると期待されている。

産総研では、硬度、熱伝導率、弾性定数、光学的透過率、化学的安定性、電気化学特性など優れた特性を持つダイヤモンドについて、半導体特性を有する素子と組み合わせて新しい応用を開拓する研究を行ってきており、これまで大型単結晶接合ダイヤモンドウェハの開発を行ってきており、現在までに2cm×4cmサイズまで実現している。また、ダイヤモンドを用いたデバイスの基礎研究も行っており、小型のダイヤモンドダイオードによるスイッチング動作の実証にも成功していた。この時のデバイスは、数10mAの大きさのものを用いていたが、その後1~5A級のデバイスが開発されてきており、今回のスイッチング回路動作の検証には、こうしたアンペア級の素子が用いられた。

今回、試作されたショットキー型ダイヤモンドダイオード整流素子は、大きな縦型デバイスの250℃耐熱パッケージに耐熱封止材を実装して作製された。この素子は、ダイヤモンドの特性から、高温動作、冷却不要、大電流密度動作などが可能となっている。

これまでのダイオード整流素子は電極サイズが小さいため、大電流容量を得るには複数の素子をワイヤで並列に接続する必要があったが、今回開発されたダイヤモンドダイオード整流素子は単一で1A級の大電流容量を持つ。また、250℃の高温でも動作できるように耐熱に優れた封止材を採用。駆動用トランジスタには既存のシリコン半導体のMOSFETを用いてダイオード整流素子のスイッチング特性の確認がなされた。なお、MOSFETは高温動作できないため、整流素子のみを高温に加熱したという。

実際の評価は、デバイスの温度変化の影響を受けない方法であるダブルパルス法を用いて実施。この結果、室温から250℃まで同様の電流・電圧のスイッチング特性が示され、15nsのスイッチングが確認された。また、スイッチング損失は60nJと低く抑えられていることも確認された。なお、リンギング(振動成分)のオーバーシュートや収束が悪かったが、これはダイオード整流素子だけを高温にして長距離配線下で計測したためだという。

さまざまな温度(室温~250℃)におけるスイッチング特性。室温から250℃まで素子を加熱しても同様の特性を持つ

研究グループでは、今回の成果からダイヤモンドパワーデバイスの高温動作、低損失動作の優位が確認できたことから、今後、大面積の基板製造技術、低欠陥高品質膜成長技術、デバイス設計技術などの開発に取り組み、実用パワーデバイスに必要な大電流が流せるように10A級、最終的には100A級の出力が可能なデバイスの実現を目指すとしている。また、ショットキー型ダイヤモンドダイオード整流素子だけではなく、ダイヤモンドトランジスタ素子の研究も進め、省エネルギー型パワーデバイスの実現を目指すとコメントしている。