理化学研究所(理研)は11月16日、シロイヌナズナの生理機能を制御するタンパク質を分解するF-ボックスタンパク質とASKタンパク質からなるタンパク質複合体を網羅的に解析し、タンパク質の組み合わせと発現の時期にさまざまな特徴があることを明らかにしたと発表した。

同成果は、理研植物科学研究センター 植物ゲノム機能研究グループの松井南グループディレクター、黒田博文元研究員、柳川由紀研究員、高橋直紀元研究員、堀井陽子テクニカルスタッフIIらの研究グループによるもので、詳細は米国のオンライン科学雑誌「PLoS ONE」に掲載された。

動植物の細胞は、生命を維持するためにタンパク質を新たに作り出すだけでなく、作ったタンパク質が不要になった場合に分解する機構を有している。この分解機構により、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防げるほか、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行うなど、生体の向上性維持のためのさまざまな生理現象の制御が可能となっている。

このタンパク質の分解は、F-ボックスタンパク質とASKタンパク質からなるタンパク質複合体により行われる。木や草花などの高等植物は、平均して約500以上のF-ボックスタンパク質を持っており、ヒトの59個、ショウジョウバエの27個に比べると圧倒的に多く、植物の生命活動にとって、タンパク質の分解が特に重要なことを示すものとなっている。モデル植物であるシロイヌナズナのF-ボックスタンパク質は約600種類、ASKタンパク質は19種類で、その組み合わせによりさまざまなタンパク質複合体が形成され、各々が特異的にタンパク質を分解すると考えられてきたが、組み合わせや発現タイミングで、どのタンパク質がいつ分解されるのか、その全容は不明となっていた。

そこで今回、研究グループはシロイヌナズナの341種のF-ボックスタンパク質と19種(ASK1~5、7~14、16~19、20A、20B)のASKタンパク質の組み合わせを対象に、網羅的にタンパク質の相互作用を調べられるツーハイブリッド法、ならびに2つのタンパク質の結合を可視的に調べるBiFC法、2つの遺伝子の発現様式を調べる共発現解析、そして蛍光タンパク質GFPを用いてそれぞれのタンパク質の時間的局在解析などの手法を活用することでF-ボックスタンパク質とASKタンパク質の局在や相互作用について網羅的な解析を実施した。

この解析の結果、ASK1~4、11~14 は、特に多くのF-ボックスタンパク質と相互作用し、F-ボックスタンパク質の有するドメインの種類によって、相互作用するASKタンパク質に特異性があることが判明した。また、F-ボックスタンパク質とASKタンパク質は細胞内において、それぞれ葉緑体、細胞質、核などに局在し、かつ特定の時期に結合して、分解に必要なタンパク質複合体を形成することも判明したほか、複合体を作らないF-ボックスタンパク質の存在も示唆された。

研究グループでは今回の成果を受けて、タンパク質複合体は、転写因子など多くの遺伝子の発現を制御しているタンパク質を分解することが知られているため、今後は、標的タンパク質を見いだすことが重要になる。また、特定の標的タンパク質をどのタイミングでどのタンパク質複合体が分解するのか、すべての複合体が本当にタンパク質分解に関わっているのか、などを調べることで、生命現象について体系立った理解が進むことが期待できるとコメントしている。

今回の研究で用いられたF-ボックスタンパク質とASKタンパク質。上段がASKタンパク質と各ASKタンパク質に相互作用するF-ボックスタンパク質の数。下段がASKタンパク質の系統樹。実験の結果、特にASK1~4、11~14(赤字)は、多くのF-ボックスタンパク質と相互作用をしたことが判明した。なお、ASKタンパク質はASK1~21まであるが、今回の研究ではASK6、15、21A、21Bを実験に使用していないという

F-ボックスタンパク質とASKタンパク質の特異性。F-ボックスタンパク質は、有するドメインの種類によって、相互作用するASKタンパク質に特異性がある。また、F-ボックスタンパク質によっては、ドメインを2つ持っているものもある