Appleの共同創業者、Steve Jobs氏の逝去から1年が経過した。そのJobs氏とともに、Appleを設立したもう1人のSteveことSteve Wozniak氏が10月1日、オンラインのニュース情報投稿・フォーラムサイトSlashdotに登場し、読者からの質問に応えた。Jobs氏亡き後のAppleやiPhoneの将来をどうみているのか、シンプルな文章で思いや考えを綴っている。

この企画は15周年を迎えるSlashdotがWozniack氏を招き、コミュニティからの質問に答えてもらおうというもの。寄せられた質問はざっと50近くあり、Wozniak氏はその約半分に回答を寄せている。質問は多岐にわたるが、その一部をピックアップしてご紹介したい。

Steve Jobsを失った後のAppleの将来については楽観的

まずはAppleについての氏の見解を見てみよう。Jobs氏というビジョナリーを失って1年、Appleは業績や株価の点では順調で、株価は時価総額最高記録を更新した。製品についても、その出来に諸意見はあれども「iPhone 5」は発売3日で500万台売れた。だが、Appleは1985年から11年間続いたJobs氏の不在の間に業績が低迷したという過去を持つ。今回、ポストJobsの出だしは好調に見えるが、「AppleはSteve Jobs氏なしでも生き残り、さらに輝きを保つことができるのか?」――これが質問だ。

Wozniak氏はこれに対し、「誰にも先のことなんてわからない」と前置きした上で、1985年にJobs氏が追放された当時と現在とではAppleの事情が異なる点を指摘する。1985年当時のAppleはMacintoshしか主力となる製品を持たない企業だったが、現在はデスクトップ/ノートブック型と多彩なMacのほか、音楽プレイヤーのiPod、iPhone/iPadなどのモバイル製品、iTunesなどのソフトウェア、さらには小売りのApple Storeも展開しており、財務体質も堅牢だ。「それだけじゃない。イノベーションを重視する強い社風があり、これは経営幹部だけではなく、(期待という点からAppleの方向性を決定づける)顧客からの理解も得ている」と楽観的な見解を綴っている。さらに提案として「Steve Jobsが戻ったとき、若く才能ある人を多数紹介した時期があった。これをまたやってみるのもいいかもしれない」と書き足している。

このスレッドには、元Apple社員としてJobs氏が去り、そして戻ってきた当時を知っているという人物の書き込みもある。その人物はJobs氏が去った後、1つの製品について約30ものバリエーションがあり、「競合と違うことをするのではなく、競合と競争するために多数の製品をリリースしていた。復帰後にJobs氏が最初にやったことの1つが、冗長な部分を切り捨て、人々が本当に持ちたいと思う製品を作ることだった」「Appleは人々が持ちたいと思う製品――必要な製品ではなく――を作ることに長けた企業だ。この伝統を維持すれば大丈夫だろう」と書いている。

"技術好き"としてはAppleの現在のスタンスに多少違和感も?

AppleについてのWozniak氏の意見をうかがわせるやりとりをもう1つご紹介しよう。質問者は、強い存在感・影響力を持ち、素晴らしいスマホを作るAppleが「邪悪でもある」といい、その理由として競合を相手に繰り広げられる訴訟合戦、高額な製品とサポート費用などを挙げる。そのうえで「自分が生んだ"赤ちゃん"がこのように成長したことに満足している?」と尋ねている。

「技術を使うコンシューマ、それに愛好家の立場から最初に物事を考える」というWozniak氏は、「Appleの製品の質に満足しているが複雑な心境だ」と答える。かつてAT&Tが自分たちからリースした機器以外はモジュラージャックに差し込めないようにしていたことに触れ、「選択肢が少なくなり、外部のイノベーターが入る余地がない。これはテッキー(技術者/技術愛好者)にとっては悪いことだ」という。

Wozniak氏はこのスレッドに2回コメントを寄せており、まずはiTunesのAndroid移植を提案している。AppleのMacintosh企業からの脱却の契機となったのがiTunesとiPodであり、これらが売上げをもたらしAppleの規模は倍増したとWozniak氏は振り返る。「iTunesをWindowsに移植し、統合されたシステム(iPod/iTunes)の潜在市場を(Mac限定ではなく)100%にしたことで、今日のApple時代が幕を開けた。ならば、iTunesをAndroidに移植するのはどうだろう?」というのがWozniak氏の提案だ。そして「私はApple製品とiTunesが好きで、自分のAnroid製品でも使いたい」と書いている(なおWozniak氏がMacintoshとWindowsで"100%"としたことについては、「Linuxユーザーを怒らせるものだ」という指摘もある)

同スレッドへの2回目のコメントは、訴訟に関するもの。同氏自身の立場としては「訴訟ではなく、他社と話し合いをもってクロスライセンスする方を好む」と、争いを好まない人柄の良さをのぞかせた。このほか、「自分のiPhoneは最高の製品であってほしいが、そのうちのいくつかは他社が最初にやったことでもいいと思う」「(技術ライセンスなどの協調路線をとったとしても)シェアに大きな変化はないだろうし、われわれコンシューマーの勝利となる」と、現在のAppleのスタンスとはやや異なる立場のようだ。

要望は「大画面のiPhone」、モバイルアプリ市場を活性化させた功績を評価

そのiPhoneについて、Wozniak氏はどう見ているのだろう? 氏は現在でも、新作のiPhoneローンチの際にゲットするための行列に並び興奮を分ちあうことでも知られている。

「ここ数年、大きな画面を持つ端末が並ぶ中で小さな画面(iPhone)を見てきて思うのだが……他にも同意する人は多いと思うが、大きな画面のほうが価値があるような気がする」と大きなディスプレイを搭載したiPhone登場への期待を語った。「iPhoneは他のスマートフォンと比較して劣っていないし、価格からみても同じような価格帯だ。iOS 6はAndroidと比べて劣っていないし、(iOSでもAndroidでも)同じようなものだと思う。Windowsについては、このようなことは言ったことがないが。こういったことから、Appleが売上げを他社に持っていかれている理由がなにかしらあるのだと思う。画面のサイズではないのかもしれないが、マーケティングで(他社が)Appleを上回ることがあるだろうか?」と補足する。

iOSの競争優位性に対する懸念については、モバイルプラットフォーム間の優劣ではなく、iOSをはじめとしたモバイルプラットフォームに共通することとしてアプリの数がたくさんあり、どのプラットフォームでもアプリの品質が同程度に達していることがあるのではないか……という。なお、「アプリストアはわれわれの生活を変えた。ここではAppleのリーダーシップに依存している」とWozniak氏は、モバイルアプリという市場を本格化させ、さらに活気づかせたAppleの功績をたたえている。また、Appleの株主としてみたとき「最も重要なことは収益性」といい、この点についても満足なようだ。

Jailbreakコミュニティについては「若かりし頃の自分を思い出させる」と

slashdotはフリー、オープンソースソフトウェアに関わる人や関心を持つ人が多く集まるコミュニティだが、フリー/オープンソースソフトウェアの世界からみると、Appleは時として敵対する存在だ。たとえば、slashdotとは関係ないが、フリーソフトウェア財団(FSF)のRichard Stallman氏は公式の場で何度もAppleを非難してきた。

今回の企画でも、オープンではなくクローズドなソース、クローズドなプラットフォームを論点にした質問も見られた。「iOSプロジェクトにはじまり、Mountain Lionで課したアプリダウンロード制限(この機能は無効化できるが)など、Appleがこのところ強化しているクローズドへの方向についてどう思うか?」「iPodやiPhoneのJailbreakに反対するAppleの態度についてはどう思うか?」というのがそんな質問の例だ。

これに対し、「正しい選択肢というのはない」とWozniak氏は答える。その上で、「私はオープンであることを支持している。オープンでありながら最も革新的な製品を作ることは可能だと信じているが、間違っているのかもしれない」と続ける。Linuxやオープンソースの考え方については、「もし私が若く、技術における自分の方法を見いだそうとしているとすれば」選んだだろうと記す。このあたりは先の訴訟などへの評価と同様、Appleの選択を否定するわけではないが、自身の志向とは異なるということだろうか。

またiPhoneについては、販売や流通の面ではクローズドだが、好きなアプリを開発できる点ではオープン、一方でAppleのアプリストア以外に配布できない……と評価する。Androidはその点、おもしろいと思ったことをなんでもでき、世界に向けて公開できるとして、「これはとてもモティベーションがあがることだと思う。ぜひ続けてほしい」という。最後にAppleが公式に認めていないJailbreakについては、「私はこれまでもJailbreakコミュニティを支持してきた。理由は、Steve Jobsと出会った若かりし頃の自分、そしてApple設立につながるまでのわれわれの数年間を思い出させるから」としている。

* * *

Q&Aはここで紹介した内容だけではなく、3Dプリンターについてやデジタルコピーに関する所感などもあるし、WikipediaのWozniak氏の項目にある友愛団体フリーメーソンとの関係について「前妻の関係からフリーメーソンに入団した」といったコメントもある。Wozniak氏が設計したコンピュータが自分の人生をより良いものにしたということで「ありがとう」と感謝の意を記した読者もいる。興味のある方はぜひ、SlashdotでWozniak氏の言葉を読んでみていただきたい。