電卓をベースとした進化系の1つ - 電子手帳「PF-3000」(1983年)

ビジネスマンの人気を集めた「PF-3000」

ちなみに、電卓の多機能化・複合化から生まれたのが、電子手帳である。多彩なアプリケーションソフトウェアを搭載することで、住所録、スケジュール管理、メモなどの機能を持つ。当時のビジネスマンに好評を得て、大ヒットとなった。携帯しやすい大きさで、紙の手帳にはない機能が受け入れられたことが大きい。

PF-3000はアルファベットと数字しか入力できなかったが、以降は急速に進歩していき、漢字の入力やPCなどとのデータ交換も可能となった。この電子手帳が、後々のヒット商品である電子辞書の基礎となったのである。

グッドデザイン賞も受賞 - 本格実務電卓「JS-20DT」(2007年)

愛用者も多い「JS-20DT」

カシオ計算機では、その時代のニーズを汲み取り、斬新な発想で電卓を進化させ続けてきている。計算機能だけを見れば大きな変化はないかもしれないが、1つの例が本格実務電卓だ。税計算、時間・日数計算など実務に役立つ機能を数多く実装しており、金融機関をはじめとして、一般企業でも経理や財務部門など電卓を日常的に使う人から、その機能と使い勝手の良さが高く評価されている。高機能なぶん、一般的な電卓と比較するとやや高価だ。

さらに「T・W・P」(太陽電池と補助電池の併用)により、光がさえぎられても内蔵電池で計算結果を保持する。実は、こういった使い勝手の改善に真剣に取り組んでいることを、見逃してはならない。

本格実務電卓では、キーボードにも多くの特徴がある。1つは2色成型の樹脂キーだ。キータッチに優れた樹脂キーを採用し、キー部分と文字部分を別々の2色で成型している。キー表面への印字では、長期の使用で数字や記号が消えてしまうことがあるが、2色成型ならキー表面が削れても数字や記号は消えない。

加えて人間工学に基づき、キーの配列によってキートップの凹凸を使い分けるなどの工夫も施されている。そのほか、速打ち機能や静音機能(サイレントタッチキー)なども、見た目は地味だが使い勝手を大幅に向上させている要素だ。このあたりは、リレー式計算機から脈々と流れる、計算機メーカーとしての技術や開発者のこだわりを具現しているところだろう。2009年には、グッドデザイン賞とロングライフデザイン賞も受賞しており、使いやすい電卓はデザイン性もトップレベルなのだ。


■ コラム ■
2000年代の初頭、カシオ計算機ではCI(コーポレート・アイデンティティ)の一環として、企業名から「計算機」を省くことが検討されたという。確かに今の時代、「計算機」とは少々古く感じる言葉であり、省略という考えも理解できる。現に、企業名の一部を省いて「ブランド名=企業名」となったような例は、国内企業でも数多い。カシオ計算機の社内でも大激論になったそうだが、「"計算機"で身を立ててきた会社が"計算機"を名乗らなくなるのは、それこそアイデンティティを捨て去るようなもの」という結論に達し、見送られたとのこと。日本で生まれ発展してきたメーカーとして、カシオ計算機にはこの先々も頑張ってもらえたらと思う。

ロングセラーを続ける「カラフル電卓」シリーズ(2006年)

「MW-C10A」シリーズ

「MW-C8A」シリーズ

「SL-C100A」シリーズ(折り畳み式)

ここで、時代を少しさかのぼる。機能的には完成したかと思われてきた電卓だが、機能面以外の要素を採り入れたのが、カラフル電卓シリーズだ。事務機や文房具として機能さえ満たせば十分とされていた電卓に、カラーバリエーションという新しい選択肢が加わった。ボディやキーボードをさまざまな色調でデザインすることで、オフィスで働く女性を中心に圧倒的な支持を受けている。2006年の発売以来、カシオ計算機の主力商品の1つであり続けていることからも、人気の高さがうかがえるだろう。

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