電卓のもう1つの流れ - パーソナル関数電卓「fx-10」(1974年)

個人向けの関数電卓「fx-10」

カシオミニの大ヒットに隠れがちだが、1972年2月には16関数の卓上型関数電卓「fx-1」が発売された(価格は32万5,000円)。価格からも個人向けとは言い難く、当時はとにかく高機能の電卓を作れば売れるという風潮もあった。

しかし、その2年後には、個人向けの関数電卓「fx-10」が登場する。対数、指数計算、三角関数、平方根といった10通りの関数計算を備えた電卓だ。数式通りに入力できるというのも大きな魅力であった。当時、海外製の関数電卓では、逆ポーランド記法に従った入力方式が多数派だったからだ(具体的には、「2+3」は「2 enter 3 +」などと入力する。プログラムの心得がある人には「スタックに積む」といえば分かりやすいだろう)。そんな便利さも、ユーザーの支持を受け、普及していった。

きょう体は、幅95mm、奥行150mm、高さ33mm、重さ330gと、まさにポケットサイズである。価格も2万4,800円と、fx-1の10分の1以下となった。カシオ計算機が開発した関数電卓の礎となり、その後もさまざまな関数電卓が登場している。

多機能化・複合化が進んだ「でんクロ」(1976年)

電卓とクロックで「でんクロ」

電卓の普及、それはカシオ計算機にとってそのまま企業の成長へとつながった。そして、デジタル技術を得意とするカシオ計算機ならではの発想によって、計算以外の機能を追加した複合電卓が登場する。最初のモデルは「CQ-1」、愛称の「でんクロ」で親しまれた電卓だ。

でんクロは計算機能に加えて、時計、アラーム、ストップウオッチ機能を備え、普段は時計として利用できる。この多機能化や複合化が新たなマーケットを創出するきっかけとなった。その1歩が、でんクロであったと言える。でんクロは海外でも好評を博した。

究極の小型化・薄型化「SL-800」(1983年)

カシオミニ以降、電卓を手がけるメーカーはひたすら「軽薄短小」に突き進む。1970年代の後半は、電卓の小型化や薄型化が急速に進んでいた。LSIの集積度向上も大きな要因であるが、液晶表示、電源として太陽電池の採用などが主な理由として挙げられる。サイズ的には「手のひら」や「手帳」が登場するが、実用的にはカードサイズが最小となり、その後の競争は薄さへとステージを移す。

その究極となったのが、超薄型カードサイズ電卓「フィルムカード」(SL-800)である。カシオ計算機では、多くの部品をフィルム化することで、厚さ0.8mm、重さ12gというSL-800を作り上げた。その後、厚さ0.8mmの記録は破られていない。まさに究極の薄型電卓であった。トップの電卓メーカーとして、やるならば徹底的に開発する、そして他が作れないものを作り出すという、まさに開発者魂を感じる電卓と言えるだろう。

1円玉より薄い、厚さ0.8mmの「SL-800」

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