アップグレードキャンペーン価格が発表され、にわかに慌ただしくなってきたWindows 8周辺。なぜ、Microsoftは"39.99ドル"という、これまでにない安価な価格設定を行ってきたのだろうか。この点を過去のWindows OSと比較し、価格決定に至るプロセスを分析してみる。そしてもう一つの話題がWindows Home Serverが終了するという情報だ。Windows 8と同時期にリリースされる予定のWindows Server 2012のラインナップ変更により、廃止されるという。今週もMicrosoftの各公式ブログで発表された記事を元に、Windows 8に関する最新動向をお送りしよう。
Windows 8レポート集
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Windows 8の販売戦略を示す"39.99ドル"
7月第一週は、本誌のニュース記事や筆者が寄稿した記事でも報じているように、Windwos 8のアップグレードキャンペーン価格が39.99ドルであることが広く知られることとなった。
Windows XP/Vista/7ユーザーを対象にした同キャンペーンでは、Windows 8の上位エディションであるWindows 8 Proへのダウンロード版が前述の39.99ドル(バックアップ用DVDは15ドル+送料等)。パッケージDVD版は69.99ドル。同キャンペーンは2013年の1月31日まで実施される。なお、その他の特徴は下記のとおりだ。
- 起動可能なUSBメモリーやISOファイルの作成が可能
- Windows Media Centerを無料追加が可能
- Windows 7からは、OSの設定やアプリケーションなどを維持したアップグレードが可能
- Windows XP/Vistaは個人作成ファイルのみ移行可能
執筆時点では通常の価格体系やアップグレードパスは発表されておらず、Microsoftもは"Windows 8の発売が近づき次第発表"すると述べている。思い出したのが、Windows 7発売時に十日間にわたって行われた先行予約キャンペーン。期間中に予約したユーザーに対し、Windows 7 Home Premiumアップグレード版を7,777円、同Professionalアップグレード版を1万4,777円で販売していた。
Windows Vista時代はハードウェアベンダーに協力を求め、優待価格によるアップグレード版Windows Vistaの販売を行っていたが、少々古い話なので思い出すのも一苦労。こちらの優待価格はベンダーによって若干異なるため、今回はマトリックスに加えず、Windows 7の先行予約キャンペーンと今回のWindows 8アップグレードキャンペーンの価格を比較してみた。なお、Windows 8アップグレードキャンペーンの国内の価格はまだ発表されていないので、ここでは1ドル=80円で日本円に換算している。
Windows 7/8のアップグレードキャンペーン価格
OS(エディション) | キャンペーン価格 |
---|---|
Windows 7 Home Premium | 7,777円 |
Windows 7 Professional | 1万4,777円 |
Winodws 8 Pro | 約3,200円 |
改めて述べるまでもなく、Windows 8へのアップグレードキャンペーン価格が圧倒的に安い。先鋭的な機能を備えながらも開発クオリティの問題やハードウェアのスペック不足で正当に評価されなかったWindows Vistaからは、Windows 7へのアップグレードを多くのユーザーが選択したはずである。しかし、内部的機能はマイナーアップデートにとどまり、Metroという斬新なユーザーインターフェースを搭載するWindows 8は、新しいユーザーエクスペリエンスを提供するため、アップグレードをためらうユーザーも少なくなさそうだ。
MicrosoftはWindows 7からWindows 8へのアップグレードを推し進めるため、これまでにないアップグレードキャンペーン価格を設定したのだろう。その一方で価格設定の背景には、Macの存在があるのではないかと筆者は愚考する。Windows VistaとWindows 7の中間時期に当たる2007年登場の「Mac OS X v10.5 Leopard」は1万4,800円とWindows OSと大差ない価格設定だが、続く「Mac OS X v10.6 Snow Leopard」は3,300円を大幅にプライスダウン。
その後の「OS X v10.7 Lion」も2,600円、「OS X v10.8 Mountain Lion」は1,700円とバージョンを重ねるごとに価格を下げている。もちろんコンピューター本体とセット販売を行うAppleとOSやソフトウェアから収益を終えているMicrosoftはビジネスモデルが大きく異なるため、単純に比較するのは公平ではないものの、iPhoneの成功により少しずつシェアを広げているMac OS Xへ対抗するために打ち出した数字が"39.99ドル"なのではないだろうか。
Windows 8の前評判はWindows 7のプレビュー版と比べても決して高くはない。筆者自身は、これまでのレポートでも述べてきたように機能向上している部分を多数見つけているし、スタートボタンの廃止もコマンド型ランチャーを使ってきた筆者には大きな障害にならないため、現時点ではWindows 8へアップグレードする予定である。
しかし、Metroアプリケーションの全面表示に抵抗感を覚えるユーザーは、このままWindows 7を使い続けてしまうだろう。そう、Windows Vistaに抵抗してWindows XPを使い続けてきたように。加えて、世界的不況と収入低下に伴い、ハードウェアやOSを買い控えするユーザーが増えるのは火を見るより明らかだ。
このような複雑な要素が絡み合って行われるアップグレードキャンペーンが、成功する否かはフタを開けてみないとわからない。加えてWindows 8が成功するポイントの一つにMetroアプリケーションがあり、Windows 8がスタートダッシュに成功するためには同アプリケーションの充実も大きな存在となる。現時点ではWindows 8が、Windows 95やWindows XPのように"成功"するOSとなるか断言できないが、アップグレードキャンペーンの結果がWindows 8の普及を左右する鍵となるだろう。