理化学研究所は21日、コンピューターで仮想現実を体験する「バーチャルリアリティー」に用いられてきた技術を使い、あらかじめ用意された「過去」の世界を「現実」と差し替えて、過去と現実の区別無く体験させる実験装置「代替現実システム(Substitutional Reality System=SRシステム)」を開発したと発表した。

同研究所脳科学総合研究センター・適応知性研究チームの藤井直敬チームリーダー、脇坂崇平研究員、鈴木啓介研究員らが開発した同システムでは、頭にかぶって視野を覆うタイプのディスプレー装置(ヘッドマウント・ディスプレー、HMD)とヘッドフォンを実験協力者に装着してもらう。HMDに取り付けたカメラでライブ映像を撮影してディスプレーに表示し、同じ場所であらかじめ撮影し編集した過去の映像と、気付かれずに切り替える。過去映像は360°全方位のパノラマ映像なので、HMDの頭部方位検出センサーによって、自由な方向の映像を見ることができる。

このシステムを21人に試したところ、全員が、本当は目の前にいない人物をいるものと信じて、会話をした。映像に自分本人が登場すると、過去のシーンを見せられたことに気が付いたが、さらに、そのからくりを説明する過去シーンを表示すると、70%の人がその説明を現実だと信じてしまった。その後、もう一度ライブで説明すると、自分の体験が現実なのかどうか区別ができなくなったという。

この装置によってこれまで困難だった認知や心理などの実験が可能になり、心理療法などへの応用も考えられるという。研究成果はネイチャー・パブリッシング・グループのオンラインジャーナル「Scientific Reports」(21日号)に掲載された。

また、同システムを用いた”MIRAGE”というパフォーマンスアートの公演を日本科学未来館で8月24-26日の間に開催する。詳細は7月上旬に”MIRAGE”のホームページで公開するという。