富士フイルムは、トマトなどに含まれ、高い抗酸化能を持つ健康成分として知られる「リコピン」を、結晶化しやすい性質を制御し、独自の技術で世界最小クラスの70nmまで安定的にナノ化した「ナノリコピン」の開発に成功し、同時に複数の成分を組み合わせて複合的に安定性を保つ独自技術も開発したと発表した(画像1~3)。

今回の技術により、高い抗酸化能などの有用性を損なわず、肌の角質層透過を期待できるという。

画像1。リコピンの光学顕微鏡写真(拡大率約100倍)。リコピンは結晶性が高く、安定的になのかすることが難しい

ヒトの皮膚は、加齢や、強力な紫外線を浴びることによって酸化ダメージ(活性酸素の影響)を受け、それがシワやシミなどの原因となってしまう。酸化ダメージから身を守るため、本来、ヒトは生体内で抗酸化成分を産生する機能を備えてはいる。しかし、その機能も加齢と共に弱まってしまうため、年齢と共にシミやシワなどが増えてしまうというわけだ。

画像2(左)は従来技術でナノ化したリコピンで、画像3(右)が今回開発されたナノリコピン。その透明性の比較。従来技術でナノ化したリコピンは、粒子径が大きいために光を透過せず、濁って見える。一方、今回のナノリコピンは、リコピンが極小サイズのまま安定化されているため、光を透過するので、透明に見える

また、さまざまな食物の中には酸化ダメージを抑制する抗酸化成分が含まれている。そうした抗酸化成分の中でも、高い抗酸化能を有するのがリコピンだ。リコピンとは「カロテノイド」の1種であり、トマトやスイカ、柿などに豊富に含まれる赤色色素である。活性酸素の消去能を有していることで知られており、抗ガン作用や糖尿病改善作用などの健康作用も報告されている、非常に優れた化合物だ。

しかし、リコピンは分解しやすい不安定な化合物であり、また結晶性が高いという特性を持つ。理想としては安定的にナノ化することが効果の面から望ましいが、そうした理由から、これまで実現されていなかった。

富士フイルムは以前よりリコピンの抗酸化能に着目しており、安定的にナノ化するための技術開発や詳細な機能研究を続けており、今回の開発と機能解明につながったというわけだ。

富士フイルムが今回の研究で着目したのは、生体内に存在する抗酸化成分の産生を促進するといわれるタンパク質「Nrf2」だ。このNrf2は、通常は細胞中の細胞質に存在する。しかし、酸化などのダメージを受けるとNrf2は細胞の核内へ移行し、一連の抗酸化遺伝子群の発現を誘導して、種々の抗酸化成分の産生を促進するという仕組みだ。

富士フイルムではリコピンが、ヒト皮膚細胞において核中Nrf2タンパク量を増加させ、生体内抗酸化成分である「グルタチオン」の合成酵素遺伝子発現を誘導すること、及び細胞内のグルタチオン量を増加させることを新たに見出し(画像4・5)。

その実験では、ヒト内皮細胞を用いて、リコピンを添加した場合と添加しなかった場合の核中Nrf2タンパク質量、グルタチオン合成酵素遺伝子発現量、グルタチオン合成酵素遺伝子発現量、細胞内グルタチオン量をそれぞれ測定。

結果として、(1)核中Nrf2タンパク質量の増加、(2)グルタチオン合成酵素遺伝子発現量の増加、(3)細胞内グルタチオン量の増加、の3点が確認された(画像5)。

画像4(左)は、リコピンのNrf2タンパク質への作用と、グルタチオン生産メカニズムの模式図。画像5(右)の3つのグラフは、左上から核中Nrf2タンパク質量の増加、右上がグルタチオン合成酵素遺伝子発現量の増加、下が細胞内グルタチオン量の増加をそれぞれ示したバーグラフ

またリコピンによって皮膚細胞内グルタチオン量が増加することで、酸化ダメージによる細胞傷害が抑制されることも確認された(画像7)。

この時の実験方法は、ヒト皮膚細胞に過酸化水素由来の酸化ダメージを与え、24時間後に生存していた細胞数を測定。リコピン添加/非添加細胞で比較している。その結果、リコピンを添加しない場合は細胞が20%減少したのに対して、リコピンを添加した場合はほぼすべての細胞が維持された形だ。

画像6。リコピンの細胞障害抑制効果

さらに、写真フィルムで長年蓄積してきた技術をベースに、高い抗酸化能を有する「アスタキサンチン」とリコピンを共存させるなど、さまざまな有用成分を独自技術で安定的にナノ化し、浸透を高めることに成功。アスタキサンチンの抗酸化能の持続性を向上させることができることも見出された。

この時の実験方法は、リコピンを併用しないアスタキサンチン溶液と、リコピン(0.5ナノモル(nmol))を併用したアスタキサンチン(1.0nmol)溶液とを、その溶液中で一重項酸素を発生させ、一定時間後の残存するアスタキサンチン量の定量から、アスタキサンチン1nmol当たりの活性酸素消去量が求められた。

実験の結果は、アスタキサンチン(1nmol)による活性酸素の消去量は、リコピンを併用しない場合と比較し、約3倍となったのである(画像8)。

画像7。リコピン併用によるアスタキサンチンの高酸化能持続性向上

今後、ナノリコピンを用いて、紫外線や環境ダメージなどの酸化ダメージによる老化を防ぐエイジングケア化粧品を開発していくと、富士フイルムではコメントしている。