ワコムは、クリエイター向けセミナー「Wacom Creative Seminar Vol.9 for Illustration」をベルサール新宿グランドで開催した。今回は、イラストレーター兼マンガ家として活躍する2名のクリエイターを招き、液晶ペンタブレット「Cintiq」を使用した2部構成のメイキングセッションを展開。本レポートでは、第1部に行われた月神るな氏によるセッションを紹介する。

20歳から描き始めて早々にペンタブレットを導入

月神氏は、『まんがタイムきららカリノ』(芳文社)にてマンガ『あるてぃめっとエチュード』を連載中であり、ライトノベル『王ディション!』『くずばこに箒星』(集英社スーパーダッシュ文庫)などのイラストも手掛けるクリエイター。また、2007年冬に話題となった同人誌『萌えるヘッドホン読本』で一部企画やブックデザインを担当し、その後に刊行された商業版『新・萌えるヘッドホン読本』(白夜書房)、『ヘッドフォン少女画報』(学習研究社)、『少女自転車解放区』(ワニマガジン)等のイラスト企画本ではデザイナーとして活躍。また、サークル「lunatic joker」として同人活動も行っている。

月神るな氏がイラストを描くライトノベル『くずばこに箒星』(集英社スーパーダッシュ文庫)の2巻表紙となった作品(左)、デザインを担当した『少女自転車解放区』(ワニマガジン)

月神氏がイラストを描き始めたのは20歳になってから。それまではイラストを含めた美術関連の勉強はしていなかったという。友人の同人サークルの手伝いとして売り子などをしていくうちにイラストを描くようになり、その後に出版社から声を掛けられるようになって現在の仕事に就いたとのこと。

使用する画材は鉛筆やシャープペンシルからのスタートだったが、すぐにペンタブレットのIntuosシリーズを導入し、現在は液晶ペンタブレットの「Cintiq21UX」を使ってラフから仕上げまでをデジタル描画で行っている。また、デザインの仕事ではIntuosシリーズを引き続き使用しているという。セッションの会場には「Cintiq24HD」が用意されており、普段使用している環境に近い機材で実演が行われた。

いち早く導入した「Photoshop CS6」

実演で使用されたソフトは、このセッション開催時時点でβ版が配布されている「Adobe Photoshop CS6」。月神氏は、既にPhotoshopCS6を仕事でも導入しており「PhotoshopはCS4からCS5へのバージョンアップでだいぶ良くなり、CS6ではCS5で加わった機能がブラッシュアップされた印象を受けます」とコメント。

具体的に便利になった機能として、レイヤーパレットでソートやラベル付けが行えるようになったことや、黄金分割等の機能が加わった切り抜きツール、ブラシの描き味が良くなったことをなど紹介。ほかにも、世界中のクリエイターが使用している自作ブラシがインターネットから入手できるなど、Photoshopならではの利点も紹介し、描画ツールとしてのPhotoshopの良さや思い入れを熱く語っていた。

実演を始める前に「Adobe Photoshop CS6」の機能やペンタブレットと組み合わせた際の使い方なども紹介された

手際の良さに驚かされた描画の実演

イラスト描画の実演は、ラフの描画方法からスタート。描画ツールはPhotoshopに登録したラフ用ブラシで、ハードウェアはMacintoshと液晶ペンタブレット、そしてワコムの「クラシックペン」を使用。「クラシックペン」のサイドスイッチには、control+optionキー(WindowsではCtrl+Alt)を割り当てており、サイドスイッチの操作によって描画する線の太さが調節できるようになっている。また、自分の「Cintiq21UX」を使用する場合は、用意されている16個のファンクションキー全てに機能割り当てを行って、キーボードは基本的に使用していないという。

今回の実演で制作過程が紹介されたイラストの完成作品

ラフ画。服の全体図などのメモを描くこともあるとのこと

ペン入れは、描いたラフの色を薄くした後に、上から被せた新規レイヤーで行っている。ラフと違ってしっかりとした線を引くペン入れ時では、液晶ペンタブレットの方が描きやすいとのこと。ペンタブレットの場合は、慣れるまで画面と手元が一致せずに何度も描き直す場合もあったが、液晶ペンタブレットでは長い線も一気に引け、描き直すことはほとんどないという。ペンタブレットで3回描き直していた作業が、液晶ペンタブレットによって1回で済むのなら、単純に作業速度が3倍になる計算だ。これにより月神氏は、作品にもよるが30分から1時間でペン入れを完了させている。

ペン入れ作業。人物では顔の輪郭から描き始め、上半身から下半身へと描き進めている

そして最後の着色では、人物の場合は肌色の単色で塗りつぶした後に、髪の毛や目、服、リボンなどのパーツごとに仕上げていく方法を採っている。セッションでは例として、髪の毛、目、リボンの着色を紹介。手順は、各パーツのみを切り抜いたレイヤーを作成して、そのレイヤー以外の着色をロックする機能を設定。ペースとなる淡い色で塗りつぶした後に、陰やハイライト入れていく。

塗りに使用するブラシは自作のカスタムブラシひとつのみで、大きさや形の変更は行うが、ブラシの使い分けはしていない。違う塗り方や異なるブラシを使用するのは細かい部分のみで、例えば目を塗る際は複数のレイヤーを作成し、グラデーションや透明度の調整機能なども使いながら塗り込んでいく。

髪の毛の着色作業。髪全体を単色で塗りつぶしてから、ペンで陰やハイライトを描いていく

解説しながらの塗り作業であったが、髪の毛の部分だけなら1分程度で終わる手際の良さで、各パーツのレイヤーさえ作ってしまえば、全体でも1~2時間程度で終了するとのこと。イラストの場合、構想から完成までなら急ぎで半日、通常は1日で仕上げている。また、今回はPhotoshopを使ったイラスト描画の実演を行ったが、マンガを描く場合は「ComicStudio」を使用し、やはりラフから仕上げまでをデジタルで行っている。

とにかく手際の良さや作業の速さに感心させられたが、それを実現するためのソフトウェアやデバイスといった環境構築の大切さも多く語られたセッションであった。