ワコムのプロシューマー向けペンタブレット「Intuos」が約3年ぶりにリニューアルされ、「Intuos5」が登場した。
0.005mmの読み取り分解能、2,048レベルの筆圧検知性能などタブレットとしての基本性能はそのままに、新たに「マルチタッチ機能」や「ワイヤレス機能」、「エクスプレスビュー」といった新機能を搭載しての登場だ。
高級感のあるデザインと、使い勝手向上のための改良
まずは本体デザインとペン入力について見ていこう。Intuos4がエッジの効いたシャープなデザインだったのに対し、Intuos5は角を丸く落とし、柔らかさを感じるデザインとなっている。ベゼル部分はラバーコート(Intuos4は樹脂にシボ加工だった)され、シックなイメージ。見た目だけでなく、ラバーコート部分はさらさらした感じで手触りもとてもいい。ベゼル部分は常に手の平が触れる部分なので、この肌触りの違いは重要だ。
一方、ペンはデザイン、性能ともIntuos4と同じものだ。Intuosは3から4で大幅に基本性能がアップし、軽い筆圧での反応、筆圧検知能力などがアップしている。現在、Intuos3を使っているのであれば、その差は絶大だ。また、ペンが同じということは、Intuos4時代のオプションペンはすべて、そのまま使えるので、Intuos4をガンガン使っていたハイエンドユーザーが買い換えた時、それほど使用頻度の高くないオプションペンを買い替えなくてもいいのはありがたい。表面のデザインとしては今回、本体デザインの方がIntuos4のペンにあわせてデザインされたかのように、質感もぴったり。Intuos4以上に本体との一体感が増したのがうれしい。
入力補助機能として、Intuos4と同じく、タッチホイールの上下に4つずつのファンクションキーがある。利き腕にあわせて、スイッチ部分を右置き、左置きどちらでも利用できる。前モデルではスイッチ部分が機械式で、またこのエリア全体が光沢のある質感だった。光沢のある質感は一見するとカッコイイのだが、画面や部屋の明かりによっては、照り返しがあり、目の端で気になっていた部分。
今回はベゼル全体と表面がラバーコートで一体化されて照り返しがなくなり、手元がまぶしいということがなくなった。この「反射」に対する配慮はペンスタンドにも見られ、従来下部がツヤ有り仕上げだったのが、マット仕上げになっている。このほか、ファンクションキー部分にはくぼみが設けられており、後述する「エクスプレスビュー」機能と相まった新感覚の操作を実現している。
Intuos4では、描画エリア部分は別質感のシートが貼ってあり、わずかだが本体と段差があった。Intuos5では、ひとまわり大きなエリアを覆うように、表面加工がなされ、描画エリアを示す「」マークがLEDで白く点灯する。
この改良はささやかなことのように思えるが、実は大きな意味がある。「Photoshop」などのフルスクリーンモードで、画面の端を描画する時、タブレット表面の段差があるとどうしてもその部分がひっかかって描きにくかった。今回の改良のおかげで、画面隅でのひっかかりが解消され、まさに画面の隅々まで描画に専念できる。
全体として質感が際立ち、目立ちすぎず、主張しすぎず、しかし高級感と存在感のあるデザインになったと言える。
マルチタッチの使い勝手
続いて、気になる新機能をみていこう。新機能の目玉といえるのが「マルチタッチ機能」だ。タブレットの盤面を指でタッチすることで、画面スクロール、拡大縮小など様々な操作ができる、いわば「タブレット全体が巨大なトラックパッドになる」という機能。Intuos4発売直後に発表されたコンシューマ向けペンタブレット「BAMBOO」ではじめて搭載され、Intuos4ユーザーは悔しい思いをしたのだが、ようやくIntuosでもマルチタッチを利用できるようになった。
タッチ機能と聞いて気になるのが、ペンと指をどう使い分けるのか、誤操作しないのかという点。実際に使ってみると、そのような心配がないことがすぐにわかる。ペンを持っているときは自動的にタッチ機能は無効となるので、手のひらなどで誤操作してしまうことはないのだ。ペンをポインタが反応しなくなる高さ以上に持ち上げたり離したりすると、タッチ機能が効くようになる。それでも誤操作が気になるようであれば、ファンクションキーからジェスチャー機能全体をオンオフ切替ができるので、ペンとタッチの混在に困ることはないだろう。
タッチジェスチャーとして、トラックパッド同様のポインタの移動、クリック、2本指でスクロール、さらには3本指~5本指まで、実に多彩なジェスチャーが用意されている。
実際に使ってみると、タッチ機能の反応は、ノートパソコンのトラックパッドと比べて遜色なく、実にスムーズ。特にスクロール機能がありがたい。マウスホイールで簡単に行えるこの操作が、従来のペンタブレットではなかなか面倒だったのだ。ノートパソコンのトラックパッドと比べて面積も大きいので、一度にドラッグできる距離が大きいのもいい。指での操作は直接、紙を手で動かしているようで、とても快適だ。また、キャンバスの回転機能や、ピンチ(2本指をせばめたり、拡げたりする)も画面上にアイコンが表示され、視覚的にも確実に操作できる点がよい。
これらのジェスチャー機能は、アプリケーションによって対応、非対応がある。手持ちのグラフィックアプリで試してみたところ、Adobe Illustrator/Flash/InDesign/Fireworks、Autodesk SketchBookシリーズ、ArtRage Studio Pro、ComicStudio、iPhoto、各種ブラウザで「スクロール」、「ズーム」「回転(その機能があるアプリに限る)」が動作したことから、対応度は非常に高いといえるだろう。唯一、セルシスが現在ベータ公開中の「CLIP STUDIO」では動作しなかった(いずれもMacOSで確認)。
タッチホイールでは、アプリケーションが非対応でもキーボードショートカットを割り当てることでユーザー側で工夫することができるが、タッチジェスチャーのカスタマイズは3本指以上の一部のジェスチャーに限られており、2本指でのズームや回転への対応はユーザー側では手の出しようがない。また、Appleのマジックパッドなど、OSで用意されているタッチジェスチャーとジェスチャーが異なる場合があるが、それも変更することはできない。今後、アプリケーション側も対応してくるだろうが、ぜひドライバー側でもカスタマイズ性を高めて欲しいところだ。
グラフィックソフトに限らず、ポインタ操作やドラッグなどの基本操作のジェスチャーはパソコン全体の操作で使える。これにより、従来、マウスが必須だったデスクトップパソコンでは、マウスを廃し、卓上をキーボードとIntuos5だけという構成にすることが可能となった。実際、キーボードを身体の正面に、Intuosをその右、つまり通常マウスを置いている位置に配置し、タッチジェスチャーで使用してみたところ、メールやWebブラウザ、テキストの打ち込みなども、ノートパソコン感覚で非常に快適に利用できた。
従来、「タブレットはあっても、マウスも必要」で、卓上のレイアウトに頭を悩ませてきたが、タッチ機能により、ようやくこの命題に終止符が打てそうだ。
前述の通り、3本指以上の一部のジェスチャーではユーザーが自由にショートカットなどを割り当てることができる。「保存」コマンドなど、頻繁に使うコマンドは、どうしても手探りが必要なファンクションキーに割りつけるよりも、盤面上であれば場所を選ばないジェスチャーの方が素早く実行できていいだろう。
ただ、一部のジェスチャーは、動作が混乱する場合がある。たとえば3本指でタップ&ホールドはラジアルメニューの表示、3本指でドラッグはウィンドウなどのドラッグだが、ドラッグしようとして、ラジアルメニューが表示されてしまう、という場合があった。
それぞれのジェスチャーのオン/オフはコントロールパネルから可能なので、あまり使わないジェスチャーはオフにしておいた方が、動作は確実。また、コントロールパネルからはわからないジェスチャー(2本指でドラッグする方法など)もあり、オンラインマニュアルをしっかり読んでアクションを理解することをお薦めする。今後、ドライバーのバージョンアップで、指の距離測定やスワイプなどの動作の感度調整を望みたいところだ。
なお、Intuos5には、このタッチ機能を省いた廉価版もあるが、その価格差は3,000円ほどなので、touch版を購入することをお薦めする。
後編では改良されたファンクションキーと新機能のExpressビュー、ワイヤレス機能について紹介する。