OSの動作やソフトウェアの実行に欠かせないメモリは、多ければ多いほど良い。しかし、Windows 8(開発コード名)では、メモリの管理方法を再検討し、Windows 7と同等のハードウェアスペックで快適に動作するように再設計されている。今週のレポートは公式ブログに掲載された情報を元に、改善されたメモリ管理方法とInternet Explorerに関する情報をお送りする。
改良が進んだメモリ管理
約10年前にリリースされ、二つのバージョンを重ねても一部のユーザーにとっては現役OSであるWindows XPの時代を思い出して欲しい。当時主流だったSDRAMのPC100(100MHzのSDRAMモジュール)はノーブランド512MBで一万円程度。PC133のノーブランド256MBでも四千円をようやく切る価格設定。現在では数千円でDDR SDRAM(PC3-10600)の4GBを二枚も購入できる計算だ。もちろん価格は市場背景なども関係するので単純に比較するものではないが、比較的高価な部類に属するPCパーツだったのは確かである。
Windows XPのシステム要件を確認してみると、必要なメモリは128MB(メガバイト)以上となっているが、最低でも256~384MBは必要で、実用レベルに押し上げるには512MB、理想を言えば1GB(ギガバイト)搭載したコンピューターで動かすべきOSであった。そこから五年の月日を経て登場したWindows Vistaのシステム要件では、同OSの機能をフルに引き出すWindows Vista Premium Readyで、1GB以上と定められている。
しかし、Microsoftの各OSで公示されているシステム要件は、あくまでも"最低レベル"であり"快適に動作する"という意味ではない。Windows Vistaを快適に動作されるためには、3~4GBのメモリを搭載し、パフォーマンス面の改善が施された同Service Pack 1以降が必要となった。Windows 7は現行OSのため、改めて述べる必要はないが、パフォーマンスに関する改善がより進められることで、同等レベルのハードウェア構成でも快適に動作するようになったのは、読者の皆さんが一番ご存じだろう。
さて、現在開発プレビュー版が公開されているWindows 8でも、Windows VistaからWindows 7へと進化したように、メモリ管理に対する改良が施されている。一つめは、Windows 8のシステム要件をWindows 7程度に抑えるために行った、全体的なメモリ管理方法の見直し。Windows OSでは、様々なソフトウェアを実行するために、共通ランタイムと呼ばれるライブラリが用いられている。
その多くは各ソフトウェアが個別に呼び出しているため、単純に同一の内容がメモリ内に複数存在することなり、無駄な重複が発生してしまう。Windows OSの開発チームはこの点に着目し、ソフトウェア実行時にメモリ内容を分析して、重複する内容を検出する機能を追加した。つまり、重複する部分は開放され、同一内容の部分は一つだけ確保することで、消費メモリの軽減を実現している。
なお、ソフトウェアがメモリへの書き込みを行う場合は、自動的に実行中のソフトウェア専用に対するメモリ内容のコピーを作成するため、ユーザーやソフトウェアの動作に影響が発生する可能性は少ない。また、従来のWindows OSでは"複数のアプリケーションを起動すると重くなる"と言われてきたが、同機能により数MBから数百MBの消費メモリが軽減するため、"Windows 8は複数のアプリケーションを起動しても軽い"ということもあり得るだろう。
二つめはサービス管理の見直し。Windows 7ではスタートアップ時のパフォーマンスを改善するために、サービスの開始を遅らせる遅延開始が導入されたが、Windows 8ではサービス全体の見直しを図り、執筆時点では13のサービスを削除。一部のサービスを自動開始から手動開始に変更。そして自動実行されていたサービスをオンデマンドスタートに変更した。
このオンデマンドスタートは文字どおり、利用者の注文に応じてサービスを開始する仕組みで従来の手動実行に似ている。OS側で一定の条件が満たされると、サービスが開始する仕組みで、作業実行後も一定時間は稼働したままだが、呼び出しがないと自動的にサービスが終了する仕組みである。このオンデマンドスタートを用いるサービスは、プラグ&プレイやWindows Updateなどが対象。いずれもなじみ深いがWindows OS稼働中、常に必要なサービスではないため、このような仕組みを用いたのだろう。
このほかにもWindows 8では、デスクトップ環境に特化したOSコンポーネントの初期化遅延や、データの管理構造を切り分けることで実現したメモリ消費量の軽減。ソフトウェアやコンポーネントが確保したメモリの解放に優先度を設けるなど、数多くの改良が施される予定だ。同社が1GBのメモリを搭載した数年前のコンピューターに、Windows 7 Service Pack 1とWindows 8を導入した環境で調査したところ、起動後のアイドル状態でWindows 8は、利用可能メモリが124MBも増えているという(図01~02)。
図01 Windows 7 Service Pack 1のタスクマネージャ。ここで確認すべきは「Available」である(公式ブログより) |
図02 Windows 8のタスクマネージャ。利用可能メモリがWindows 7より大きい(公式ブログより) |
公式ブログの情報だけを踏まえれば、確かに効率的なメモリ管理が行われるように見えるが、実際に我々がWindows 8を手にし、使い慣れたソフトウェアを使いこんでからでないと、本当に改善されたのか断言するのは難しい。ハイエンドクラスは数十GB、ミドルレンジクラスのコンピューターでも数GBのメモリを搭載する時代に、Windows 8で改善されるメモリ管理は、より広大なメモリ空間をユーザーが自由にできるのか。興味深いポイントである。
加速化するWebブラウザー戦争
たまにはWindows 8以外の動向にも目を向けてみよう。さて、Windows OSの標準WebブラウザーはInternet Explorerである。2011年3月に登場した現行バージョンは、標準規格への追従や多機能化を行い、同時に次世代版となるInternet Explorer 10の開発も推し進めている。Windows OSという高シェア(占有率)を背景に、事実上の標準Webブラウザーと見なされてきたInternet Explorerだが、ここ数年は陰りを見せてきた。
1990年代後期は九割近いシェアを誇っていたInternet Explorer(当時のバージョンは4~5)だが、Microsoftの独自実装や、高シェアによる弊害とも言える多数のぜい弱性報告により嫌気を覚えたユーザーは、Netscape Navigatorに代表されるサードパーティ製Webブラウザーを選択する方も少なくなかった(筆者も一時期まではNetscape Navigatorを使っていた)。Webブラウザーによるシェア争いは、俗に"Webブラウザー戦争"と呼ばれる現象だが、ここ近年はライバルWebブラウザーの登場でInternet Explorerの過去の地位が危ぶまれている。
カスタマイズ性に魅力を見出すユーザーはMozilla Firefox、快適な動作を望むユーザーはGoogle ChromeやOperaを選択する傾向があり、Net Applicationsの調査によると、2011年9月時点でデスクトップコンピューター用Webブラウザーのシェアは、Internet Explorerが一位を守りながらも、そのシェア率は54.39%。続く二位のMozilla Firefoxは22.48%。三位のGoogle Chromeは16.20%とほかのWebブラウザーに比べ、上昇推移を見せ始めた。
十年の月日が経ち、状況が一変としたのはいえ、シェアが半分にまで減るのは尋常ではない。Microsoftも手をこまねいているはずもなく、Intenet Explorer 9のリリースと連動した「Beauty of the Web」の運用やアピールを行っている。先ごろ設置した「Your Browser Matters」も明らかに同様の意図を持ったサイトだろう。
同サイトはWebブラウザの安全性チェックが目的。同社がまとめたセキュリティ動向情報をベースに、フィッシングなどセキュリティ関連組織「Anti-Phishing League」「Identity Theft Council」「Online Trust Alliance」らの専門家を集め、意見を取り入れたものだという。
チェック内容は、マルウェアのダウンロードを抑制する機能を確認する「Dangerous Downloads」、フィッシングサイトに対する警告機能を確認する「Phishing Websites」、Webブラウザーへの攻撃耐性を確認する「Attacks on your browser」、Webサイトに仕掛けられた悪意のある攻撃への耐性を確認する「Attacks on websites」の四項目(図03)。
図03 Webブラウザーのセキュリティチェックを行う「Your Browser Matters」 |
評価も四段階。Intenet Explorer 9で同サイトにアクセスした場合は四点満点となり、Google Chrome 14が二・五点、Mozilla Firefox 7が二点と散々たる結果だ。もっとも同サイトはWebブラウザーに対して何らかの検索を実行しているのではなく、調査結果を表示しているに過ぎない。各セキュリティの調査結果自体に嘘はないのだろうが、過去にも都合の良い結果だけを取り出して報告する例(反Linux活動キャンペーン「GET THE FACTS」など)も見られただけに、どうしても穿(うが)った見方をしてしまうのは筆者だけではないだろう。
2011年現在、ソーシャルネットワークやネットアプリケーションの台頭により、Webブラウザーの重要性は日々高まっている。それだけに将来の標準Webブラウザーの地位を明け渡すのは、数十年前から繰り広げられてきたOSのシェア戦争に敗北することと同義である。Windows 95をリリースすることでOS市場のシェアを握った同社を中心に、三つ巴の乱戦に入るのは火を見るよりも明らかだが、ユーザーとしては高い機能性や利便性を持ったWebブラウザーを求めたい。
阿久津良和(Cactus)