競争意識や優越感をくすぐってサービスや製品をもっと利用してもらう――ゲームプレイのメカニズムをゲーム以外に適用する「ゲーミフィケーション(Gamification)」という考え方が注目を集めている。2015年には、Global 2000企業の70%がゲーミフィケーションを利用したアプリケーションを最低1つは持つという予想もある。企業にとって重要なトレンドとなりそうなこのゲーミフィケーションとはいったい何なのだろうか?

代表選手は「Foursquare」「Nike+」

Wikipedia英語版では、ゲーミフィケーションを「ゲームプレイのメカニズムを、ゲーム以外のアプリケーションに利用するもの。特にコンシューマー中心のWebやモバイルサイトで、アプリケーションの利用を促進する目的で利用されている」と定義している。「ファンウェア(Funware)」と呼ぶこともあるという。

ゲーミフィケーションをバズワードとして取り上げたMashableの記事「競争がビジネス、マーケティング、日常生活を変える」(原題:Gamification: How Competition Is Reinventing Business, Marketing & Everyday Life)では、ゲーミフィケーション分野に明るく著書も持つGabe Zichermann氏(米Gamification CoのCEO)、モバイルゲームの米SCVNGRを設立したSeth Priebatsche氏などの話を中心に、トレンドを分析している。マーケティング担当者はもちろん、ITプロや開発者も知っておいてよさそうなキーワードだ。

ゲーミフィケーションの代表が「Foursquare」だ。Foursquareは日本でもじわじわと広がりつつあるので、ご存じの方も多いだろう。お店や駅などの場所にチェックインし、友人に知らせたりコメントを共有したりするというのが基本機能だ。これだけなら単なる位置情報を利用したソーシャルアプリだが、チェックインの回数が多いユーザーはバッチがもらえたり、メイヤーというタイトルももらえたりするのが特徴。がんばってバッチをもらおうと思わせる部分がゲームの要素となる。

Foursquareの場合、ソーシャルの要素も強いが、ゲーミフィケーションを根本から取り入れたのがKevin Richardson氏が発案した「The Speed Camera Lottery」だ。スピード監視カメラはスピード違反者を取り締まるものだが、「速度を守ることを楽しくできないか」と発想を変え、速度を守っている人をカメラに収め、抽選で違反者が払った罰金の一部が当たるというクジだ。実際に効果はあったようだ。スウェーデン・ストックホルムでSpeed Camera Lotteryを実験導入したところ、平均速度が時速32キロメートルから25キロメートルに減速したという。Richardson氏はこのアイディアで、独VolkswagenのThe Fun Theoryコンテストを勝ち取っている。

Mashableによると、よく利用されるゲームのメカニズムとして、「バッチ」「ポイント」「レベル」「スコアボード」「チャレンジ」の5つがあるという。ポイント、バッチ、レベルについては説明不要だろう。スコアボードは友人のポイントと比較したり、到達までどのぐらいあるのかなどを数値化したりすることでモチベーションを高める仕組みだ。チャレンジはコミュニティに問題解決を仕掛けるもので、報奨金などが用意されることも多い。Nikeのコミュニティサイト「Nike+」は、メンバー間でチャレンジ(課題)挑戦を奨励する仕組みを導入した好例と言える。

マーケティングが変わる? エンゲージメントの時代へ

ゲーミフィケーションの背景について、Priebatsche氏は、「ソーシャルレイヤが完成した後、ゲームレイヤの構築が始まることは自然な流れ」と分析する。興味深いのは、「これまでのマーケティングテクニックが機能しなくなった」というZichermann氏の言葉だ。インターネット時代に育った若者は、参加型のエクスペリエンスを求めているというのだ。

これら専門家の予想を裏づけするのが、Gartnerが4月に発表した調査レポートだ。2015年には組織の50%がイノベーションプロセスをゲーミフィケーションすると予想、2014年には顧客維持を目的としたコンシューマー製品におけるゲーミフィケーションサービスの提供は、Facebook、Amazonと同じぐらい重要になるとし、70%のGlobal 2000企業が1つ以上のゲーミフィケーションアプリを提供すると予言している。

Gartnerはゲーミフィケーションを重要なトレンドになると見ており、うまく活用すれば、顧客との高いエンゲージメント、行動の変化、イノベーションの刺激を実現できるという。「従業員、提携先、顧客が高度かつ容易に使えるツールを利用して、エンタープライズアーキテクチャを最適化できる」とGartnerアナリストのBrian Burke氏は述べている。

ゲーミフィケーションを利用してエンゲージメントを強化する手法として、Gartnerは以下の4つを挙げている。

  1. フィードバックサイクル
  2. ルールと目的の明確化(メンバーが強い目的意識を持てる)
  3. 参加したくなるような魅力的な物語性
  4. 挑戦意欲をかきたて、かつ達成可能なタスク

ゲーミフィケーションの技術ベンダーも登場

ゲーミフィケーションのアイディアは理解したが、ビジネスにどうやって取り込めば良いのか?――そんな疑問を持つ方もいるだろうが、心配はない。すでにゲーミフィケーションをビジネスとする企業が生まれており、米Bunchball、米Badgevilleなどのベンチャー企業が、Webサイトにゲーミフィケーション要素を追加できるプラットフォームを提供している。プラグイン感覚で導入できるこうした技術が、今後ゲーミフィケーションのトレンドを加速する推進役となりそうだ。

だが、何でもかんでもゲーミフィケーションできるのかというと、専門家の意見は分かれる。Zichermann氏はがん患者の心理支援を含め、あらゆるものに応用できると見ているが、Priebatsch氏は「何にでも適用できるというわけにはいかない」と述べる。なお、Wikipediaでは、従業員トレーニング、プロダクトマネジメント、ダイエットなどのヘルスケア、財務サービス、オンラインショッピング、基礎教育などをゲーミフィケーションの適用分野に挙げている。今後、技術とともにアイディアが発展し、企業において導入が広がることは間違いなさそうだ。