グーグルは7月20日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京において、同社の企業向けソリューションをテーマにしたカンファレンス「Google Enterprise Day 2011 Tokyo」を開催した。カンファレンスでは「100% ウェブの世界へ」というキーワードを繰り返し強調。企業のITインフラをクラウドベースに切り替えることで得られるメリットや、それを実現する新技術を詳しく紹介した。

ここでは、基調講演の模様を簡単に紹介しよう。

基調講演に登壇した、米Google グローバルセールス&ビジネスデベロップメント 担当副社長のアミット・シング氏

100% ウェブのメリット

基調講演に登壇した、米Google グローバルセールス&ビジネスデベロップメント 担当副社長のアミット・シング氏はまず、"100%ウェブ"のメリットとして次の5項目を挙げた。

  • Webブラウザさえあれば事足りるため、個別にクライアントソフトウェアをインストールする必要がない
  • デスクトップアプリケーションを活用する場合に比べて、スケーラブルで、セキュアなうえ、グローバルで利用でき、コンピューティングリソースをシェア可能
  • 課金は利用量に応じて支払うサブスクリプションモデルを適用でき、初期費用を抑えられる
  • モバイル端末も含め、インターネットにつながる端末さえあれば、どこからでもアクセスできる
  • アップグレード作業が不要で、新機能は随時取り込まれる

こうした要件を満たすプラットフォームとして、Singh氏は「Google Apps for Business」と「Google App Engine」を紹介。同プラットフォームが、99.9%の可用性を実現した高信頼の基盤であることや、「1%テスト」(一部のユーザーにのみ試験的に新機能をリリースし、その反応を見ながら正式リリースを行う制度)を通じて安定した新機能が随時組み込まれていくこと、さらには、すべてのデータに暗号化が施されているうえ、データセンターの運用管理でもID/パスワードに加えてセキュリティトークンを導入するなど、セキュリティ面も磐石であることなどを説明した。

また、Singh氏は上記の高可用性を裏付けるエピソードとして、英国ウィリアム王子のロイヤルウェディングで、YouTubeに1秒あたり3万2000リクエストがあったにもかかわらず問題なく運用できた実績を提示。セキュリティに関しては、「企業の重要なデータをクラウドへ預けることに抵抗を感じる方もいるかもしれないが、皆さんがPCやサーバで管理するよりも確実にリスクが少ない」とコメントした。

さらに、講演では、Google Apps for Businessのデモも披露。特徴的なアプリケーションとしてGoogleドキュメントのスプレッドシートを取り上げ、PCのみならず、スマートフォンやタブレットPCからでも閲覧/編集できることを説明したうえで、複数のユーザーが同時にデータを編集する様子や、スマートフォンから日本語音声入力を使って備考欄を埋める模様なども示した。

Google Apps for Businessのデモ。スプレッドシートを7人が同時編集している。この写真ではわかりづらいが、セルの枠に色が付いている箇所が編集されている。

Googleドキュメントは、タブレットPCやスマートフォンからも編集/閲覧が可能

Google Talkのビデオチャット機能で対面ミーティングもできる

噂の新ノートブック「Chromebook」披露

米Google エンタープライズ マーケティング担当ディレクターのクリス ・ファリナッチ氏

続いて登壇した米Google エンタープライズ マーケティング担当ディレクターのクリス ・ファリナッチ氏は、"100%ウェブ"に向けた同社の特徴的な技術として、Webブラウザ「Google Chrome」、新端末「Chromebook」、アプリケーション群「Google Apps」、地図情報基盤「Earth Builder」、試験提供を始めたばかりのSNS「Google +」を取り上げ、その概要を説明した。

これらのうち、特に力を入れて説明されたのが日本未発売のChromebookだ。同端末は、GmailやGoogleドキュメントなど、クラウド上のアプリケーション/ストレージを活用することを前提としたノートPC。余計な機能を排除した結果、わずか8秒の高速起動を実現したうえ、バッテリーも長持ちするという。起動して認証を終えると、デスクトップの代わりにGoogle Chromeが現れる。このGoogle Chromeには「閉じる」ボタンがなく、すべての操作をWebブラウザを介して行う仕組みになっている。

Chromebookのデモを行ったグーグル エンタープライズ部門 セールス エンジニアの泉篤彦氏。手にしている黒い端末がChromebook(5月のGoogle I/Oで参加者全員に配られた一世代前のもの)

Chromebookのログイン画面

ログインが終わるとGoogle Chromeが現れる。このChromeは「閉じる」ボタンがなく、代わりに右上にはバッテリー残量が表示されている

Googleドキュメントでイラストを作成。デモはこの後、端末が何者かに強奪されるという"わざとらしい寸劇"(泉氏談)をはさみ、「それでもデータが紛失することはなく、異なる端末から改めてログインすれば作成途中のイラストを表示/編集できるうえ、データも端末に残らないので情報漏洩を心配する必要がない」と続く

ファリナッチ氏は、一般的なPCの問題点について、「まず、アンチウィルス、バックアップソフトなど、最低限必要なアプリケーションがいくつかある。それらが更新された際には適用する作業も必要になり、そのコストは平均で年間5000ドルにも及ぶという調査結果がある。また、ローカルディスクにデータを保存することで、端末紛失時やマルウェアの感染時に情報が流出するリスクも高くなる。さらに言えば、通常のPCのBIOSは、信じられないことに、現在でもフロッピーディスクドライブを探そうとしたりするなど、無駄な処理が多く、パフォーマンスに悪影響を及ぼしている」と指摘。こうした諸問題を解決する端末として、Chromebookの提供に至ったことを明かした。

また、ファリナッチ氏は、Chromebookの特徴として、「一般的なPCは、最高性能を発揮できるのは購入して間もないわずかな期間だけで、端末内のデータ量が多くになるにつれてパフォーマンスが低下する。それに対してChromebookは、基本的にローカルにデータを保存しないためにそういった心配がないうえ、使い込むにつれユーザーの特性を学んでどんどん使い勝手がよくなる」といった側面があることを説明。さらに、キャッシュのデータも暗号化するなど、セキュリティにも配慮されており、企業ユースにも十分耐えられることを強調した。

なお、Chromebookは、現在のところ米国にてAcerとSamsungが提供している。国内の販売に関しては発表されていないが、「Googleのビジネス向けソリューションの導入件数は日本が最も延びている」(シング氏)という状況にあり、国内企業のニーズに応える製品としてリリースされる日も遠くはなさそうだ。