米Intelは、開催中のCOMPUTEX TAIPEI 2011にて、新たな製品計画や、次世代プロセッサに関する情報のアップデートなどを相次いで発表している。同社PC Client担当Vice PresidentのMooly Eden氏が登場した記者会見では、ノートPCの新カテゴリを創出する「Ultrabook」計画の発表、関連して次世代プロセッサ「Ivy Bridge」の概要と動作デモの公開、さらに次々世代の「Haswell」への言及など、多くの内容が語られた。

米インテル、PC Client担当Vice PresidentのMooly Eden(ムーリー・エデン)氏

ノートPCの新たな製品カテゴリ「Ultrabook」を今年後半に投入

薄型軽量タイプのノートブックPCは、その基本形状においては従来、PCメーカーが独自の技術力などでアプローチしてきた"スペシャル"な製品の分野であったが、Intelでは、これをノートブックPCとタブレットの間に位置する、例えばNetbookの様な、新たな「製品カテゴリ」として定義し推進して行く。これが「Ultrabook」だ。Ultrabookでは、厚さ20mm以下のボディを実現し、ボリューム価格帯を1,000ドル以下に抑えと、Intelでは説明している。PCメーカー各社のUltrabookシステムの市場投入は、今年の年末商戦をターゲットに、2011年の下半期から始まる。

ノートPCの新たな製品カテゴリ「Ultrabook」を発表。今年後半にシステムの市場投入がはじまる

COMPUTEXでは、このUltrabookの製品レベルの実機も公開されている。この最初の世代のUltrabookでは、CPUにSandy Bridegこと第2世代Intel Coreの「UM」モデル(いわゆる低電圧版)を搭載し、低TDPによる薄型化と、性能部分はTurbo Boost 2.0とCPU統合メディア機能といったSandy Bridgeの特徴を活かすことで補っている。また推測だが、おそらくは、Intelが提唱する以上、基本的なプラットフォームデザインの規格化の様なことも計画していると考えられる。なお、既にレポートをお届けした、ASUSの新型ノート「UXシリーズ」も、実はこの"Ultrabook"であることも明らかとなった。

さて、Sandy Bridegに、高性能なグラフィックス機能や、動作クロックを動的に向上できるTurbo Boost技術があることで、低電圧版であっても性能を犠牲にする場面は減っている。Eden氏も、Ultrabookについて、ノートPCとタブレットの"間"の製品セグメントとしながらも、通常のモバイルノートに匹敵できる性能・機能を持つという旨を説明している。ただ、そうではあっても、ここまででの"Ultrabook"では、程度の違いはあっても、以前に同社が「CULV」ノートPCとして提唱、提供してきたプラットフォームの延長線上から外れない存在の様にも見える。

2012年の「Ivy Bridge」以降で大きく加速するUltrabook構想

COMPUTEX初日に開催された、COMPUTEX主催団体実施の基調講演に登壇した米IntelのSean Maloney氏(Executive Vice President)もUltrabookの話題に触れており、同氏は2012年末までに個人向けノートPC市場の40%を、Ultrabookが置き換えるという展望を述べている。これはUltrabookがCULVとは異なると考えられる展望に見える。CULVはNetbookと同様に製品カテゴリの隙間を狙ったものであり、Ultrabookも小型コンピュータ端末と通常サイズノートPCとのギャップを埋めることが期待されている製品カテゴリであるだろうが、それ以上に、現在のノートPCの製品カテゴリを置き換えるという役割が強調されている。

ノートPCのかなりの部分を、Intelの言うUltrabookで置き換えるというのは、それこそ単純に、従来のノートPCで期待される以上に、画期的に低TDP(=軽量薄型化が可能)かつコンピューティングパワーが高ければいい。Sandy Bridgeの次世代で、同社の"Tick-Tock"戦略における、新プロセスルール導入による微細化のサイクルを指す"Tick"にあたる新アーキテクチャ「Ivy Bridge」を、Eden氏は「Tick+」のアーキテクチャだと話している。"+"を付けた理由は、Ivy bridgeの22nmプロセスで新規採用されるTri-Gateトランジスタ(参考記事はこちら)が低電圧動作・低リーク電流を可能にするということと、微細化サイクルのTickでありながら機能拡張も少なくないためだとEden氏は説明している。

IntelのTick-Tock戦略。見慣れた図だが、少し違うのが、Ivy BridgeにTickに「+」がついていること

22nmプロセスは初のTri-Gateトランジスタ採用。トランジスタレベルでのパフォーマンスアップが大きい

このIvy Bridgeでの機能拡張としてEden氏が公開した情報の中で、Ultrabookに絡んで興味深いのが、「Configurable TDP Technology」と呼ばれる電力と性能の最適化技術だ。Turbo Boostを応用した様な技術で、Turbo BoostはTDP(熱設計電力)枠内に収まる限り動作クロックを適時引き上げるが、Configurable TDPでは、そのTDP枠自体を上下に変更できる。Eden氏の説明によると、Configurable TDPでは、低TDPと高TDPの2種類のTDPモードを設定できるようだ。大まかに言えば、TDP20WクラスCPU搭載のB5サイズのモバイルノートが、条件次第でTDP40WのA4据え置きノートに化けることができる、というイメージだろう。Eden氏はこれについて、ノートPCの冷却性能を強化できるドック(というものが実際に計画されているらしい)を用意して、ノートPC単体での運用時は低TDPモード、ドック接続時は高TDPモードに移行するという具体的なソリューション例も紹介した。

プロセッサのピーク性能を必要とする場面は瞬間的であり、その瞬間に対応し、TDP枠内に収まる限り動作クロックを適時引き上げるというのがTurbo Boost技術。Configurable TDPでは、そのTDP枠自体を上下に変更

Configurable TDPで、ノートPC単体での運用時は省電力に特化した低TDPモード、ドッキングステーション接続時はデスクトップ並の性能の高TDPモードに移行

Ivy Bridgeでの機能拡張では、統合グラフィックス機能も大きく強化される。Eden氏はまず、Ivy Bridgeの統合グラフィックス機能がDirectX 11対応へと進化することを明言。Ivy Bridge搭載というノートPC実機による3Dゲームプレイのライブデモを公開することで、GPUパフォーマンスがSandy Bridgeよりも強化されるというアピールを行った。メディア処理エンジンも強化されるとしておりで、同じく実機ライブデモで、複数のHDビデオを同時にストリーム再生する様子を公開するなどしてアピールした。

どちらもIvy Bridge搭載の試作ノートPC。左がPCゲーム「StarCraft II」の動作デモ、右がHD動画×12本の同時再生デモだ

Tri-Gateトランジスタの22nmプロセスによるトランジスタレベルでの性能向上と、これら機能拡張を果たしたIvy Bridgeは、2012年の初頭に登場する予定とされている。先の、「2012年末までに個人向けノートPC市場の40%を、Ultrabookが置き換える」という展望は、このIvy Bridgeのパフォーマンスが前提になったものだ。そしてEden氏はさらに、Ivy Bridgeの次世代にあたる「Haswell」の存在に言及し、このHaswellによってUltrabookの構想がより大きく進むことを説明した。

Eden氏はIvy Bridgeのウェハも披露

Ultrabook構想の本命は2013年の「Haswell」か? SoCも計画

Ultrabook構想で、「Haswell」でのジャンプアップはIvy Bridgeのそれよりもさらに大きくなる可能性が高い。Eden氏は、Haswellは「ノートPCを新たに作り直す」ものだと紹介していた。Ivy Bridgeすら未だ登場していない時期なので、2013年のアーキテクチャとなるHaswellのベールはまだまだ厚いが、それでもEden氏が今回公開してくれた情報は重要なものであった。

まずEden氏は、IntelがHaswellでモバイル製品のTDP枠を引き下げる計画であることを説明した。現在のモバイル製品のTDP枠では、ノートPCのTDP枠は主にCoreプロセッサがカバーする30W程度が中心となっており、20W以下のTDP枠ではAtomプロセッサ搭載製品がカバーする領域となっている。これがHaswellでは、現世代の約半分となる15W以下というTDP枠までをターゲットとする。このあたりの、10~20WのTDP枠をカバーするのが、Haswell世代のUltrabook(つまり主力ノートPC)になるのだという。

Haswellでは、主力ノートPCのTDP枠として、現世代の約半分のとなる15Wの枠を用意する

さらにEden氏は、HaswellはCPUとチップセットを統合した1チップ構成、つまりSoC(System on a Chip)を用意することを明らかにした。このSoCのHaswellが、主にUltrabookを実現するためのものとなる。ただEden氏は、すべてのHaswellがSoCになるわけではなく、デスクトップやハイエンドノートでは、Haswell世代でもCPUとチップセットが独立した2チップ構成の要望が残ることから、選択肢として、1チップ構成版と2チップ構成版の両方のHaswellを用意することになるだろうと述べている。

現在のノートPCを置き換え、将来のノートPCという製品ジャンルを代表することを目指すHaswell世代のUltrabook