モバイル/デスクトップ問わず、今後の注目は3D

長年Flashと共に歩んできたチャンバーズ氏から見た「Flashの未来」とは、どのようなものなのだろうか。

「ひとつは3Dでしょう。『Adobe MAX 2010』の基調講演でケビン・リンチがお見せしたテクノロジーのひとつなのですが、モールヒル(Molehill)というコードネームで開発が進められた3D-APIは、フルにハードウェアのアクセラレーションを活かすことができます。このAPIによって、パフォーマンス最適化が行われ、チューニング作業の手間が大幅に省けます。他では、主にスマートフォンでのRIAコンテンツの開発を主眼に置いたAdobe Flex 4.5(コードネーム Hero)により生み出されるコンテンツ。RIAに限らず全てのコンテンツに当てはまることですが、今後のトレンドとしてスマートフォンやタブレットといった、デスクトップ以外の活用シーンを想定しておかねばならないという考え方を持ち、開発側が適応していくことが大切です。その一助となるのがFlexの次バージョンです」

Flex 4.5は、モバイルで動作するアプリケーションの構築の行いやすさに主眼が置かれており、パフォーマンスの最適化やタッチベースの操作に則したコンポーネントがあらかじめ用意されているという。そうしたモバイル端末への対応を急ピッチで進める背景には、少なからずAndroidの存在が見え隠れしている。

「アメリカやヨーロッパの開発者たちのなかで現在ホットになっているのが、モバイルに対してのアクションです。Flashが利用できるスマートフォンの登場、さらには『AIR for Android』によりAndroid向けにFlashでアプリケーションを開発することができる。なかでもAndroid向けのAIRに関しては開発者たちの意識も高く、ローンチ後僅かな期間にも関わらずAndroid Marketには500を超えるAIRを使ったアプリケーションが掲載されています」

世界的にも急激にシェアを伸ばしたAndroidと、根強い人気のiPhone。では、Flashと相性が良いのはどちらなのか。

「個人的には、Androidの方が良いと思っています。理由は、Androidはオープンなプラットフォームであること。それから、開発という点でも、若干Android向けの方がやりやすいという気がします。選択肢も多いですし、ネイティブjavaで書くということも可能になりますから。ただ、iOSのデバイスも大好きです。素晴らしいデバイスだと思います。ですが、開発者として学習曲線を考えたときに、少し学習に要する時間が掛かり、そのプラットフォームに対して、かなりのコミットが必要になる。そういったことを考えるとAndroidですね」

チャンバーズ氏は、今後も様々な形でAdobeの有益な情報を開発者に向けて発信したいと考えている。

「どのようにすれば高いパフォーマンスを維持したコンテンツを制作できるのかを、開発者の方たちに語りかけていきたいと思っています。また、今まで以上にオンライン上でもいろいろな情報やリソースを提供し続けたいですね。良いコンテンツを創り、それを開発者の方々が見て関心が集まる。Flashがモバイルにもたらすメリットや価値を引き上げていくことによってプラットフォームへの関心が高まる。そういったコミュニケーションをベースとしたコミュニティの仕組みの中で、最終的に成功するプラットフォームがなんなのかが決まっていくのではないでしょうか」

Flashは「革新をもたらす存在」であり続ける

最後に、モバイルを主眼に捉えたFlashがどのような役割を担うのか、どういったエクスペリエンスを提供してくれる存在になるのか、チャンバーズ氏に訊いた。

「FlashはWeb上でこれまでふたつの大きな役割を果たしてきたと言えると思います。ひとつは革新です。Webに対して従来にはなかった新しいフィーチャーを可能にしていったという事実。そしてふたつめには、プラットフォームが違えども、そこに一貫性を持たせていくという役割です。その役割をweb上で果たし続けながら、モバイルでもその役割を担うことになるでしょう。例えば、先ほど話題に上った3Dですが、Flash Playerという世界的に普及し、持続的に機能をアップデートすることが可能なプラットフォームによって、数多くのユーザーに3Dを用いたコンテンツを手軽に届けることが可能となります。Web上で3Dを実現したのは私たちが一番手ではなかったですが、Web上で3Dを本当に使えるものへ推し進めた一番手は私たちだと自負しています。また、HTMLが黎明期より成熟していったように、Flashも熟成が進みHTMLが辿った役割を同様に果たしていくでしょう。これはユーザーの皆さんにとって喜ばしいことだと思います。Flash上で稼働する新たな技術を我々が精査し、その技術を取り込んでいく。その主戦場となるのが3Dではないでしょうか。いまや新しく出てくるハードウェアの大半がハードウェアアクセラレーションのためのビデオカード、ビデオチップに対応してきており、Webで3Dを活用するための環境は整ってきています」

撮影:糠野伸