2010年9月のスペシャルイベントにおいて、米Apple CEOのスティーブ・ジョブズ氏はiPod touchのことを「携帯ゲーム機の市場でナンバーワン」と紹介し、ゲームに焦点をあてたデモを披露した。これがAppleの考える、iPod touchのポジションだ。この"携帯ゲーム機としてのiPod touch"について、米Appleのワールドワイドプロダクト マーケティング iPod担当であるショーン・エリス氏に話を聞いた。

iPodファミリーの牽引車となったiPod touch

「ご存じのとおり、iPodは世界でもっとも人気のある携帯音楽プレイヤーです。そしてその中でも一番人気があるのがiPod touch」とエリス氏は語る。iPod touchがiPodファミリーの販売に占める割合は、直近の四半期では50%を越えているという。そしてその理由として、エリス氏は「これだけスリムなボディにさまざまなすぐれた技術が入っていること」を挙げる。具体的には、携帯デバイスでもっとも解像の高いRetina Display、電力消費が小さくてパワフルなA4プロセッサ、HD動画も撮れるリアカメラ、Facetime/テレビ通話ができるフロントカメラなどが人気の要因だという。

2010年9月に発売された第4世代iPod touch

このiPod touchは、どういう用途で使われているのか。「もちろん、音楽・ビデオのプレイヤーとして使っている人がたくさんいるのも確かです。日本でもiTunes Storeで映画の取り扱いがようやく始まりましたし。Wi-Fiを搭載していてインターネットにもアクセスできますから、Webアクセスに利用する人もいます」としながらも、最近では「携帯ゲーム機としてiPod touchを求めるユーザーが多くなっています」という。

冒頭に触れたジョブズ氏のスピーチにもあったように、現在iPod touchは世界でもっとも人気のある携帯ゲーム機といえる。ワールドワイドの販売台数でいえば「ソニー(PlayStation Portable)、任天堂(ニンテンドーDS)を上回っています」という。

第4世代iPod touch発表時のプレゼンテーションは、携帯ゲーム機としてのポジショニングを強く意識したものだった

iPod touchの表示能力は次世代携帯ゲーム機をも上回る

ゲーム機としてのiPod 支えるのが、先に人気の理由として挙げたRetinaディスプレイやA4プロセッサ、さらには3軸加速度センサーおよび第4世代で搭載された3軸ジャイロスコープだ。これらを搭載することにより、負荷の高い処理もパワフルにこなし、高い表現力を発揮し、複雑な動きを感知できるゲームを遊ぶことができる。

とくにRetinaディスプレイは、960×640ドット(横表示時)の解像度を誇り、ニンテンドーDSの上画面・下画面とも256×192ドット、PlayStateion Portableの480×272ドットという解像度を上回る。さらにエリス氏は「今、世の中にある携帯ゲーム機よりも解像度が高いというだけでなく、今年これから登場してくるプレイヤーよりも解像度が高いのです」と強調する。間もなくの発売が予定されているニンテンドー3DSは、上画面が800×240ドットで下画面が320×240ドットだが、上画面は3D対応で右目用・左目用の表示を行うため、実質的には400×240ドットとなる。また、先日発表されたNGP(Next Generation Portable)の解像度は960×544ドット。iPod touchはこれらの次世代携帯ゲーム機をも上回る解像度なのだ。

この解像度の高さとそれに伴う表現力は、ゲームを遊ぶうえで大きなアドバンテージになる。3Dゲームで遠くの敵を小さく、しかし正確に描画できるなど、単純に表示が美しいというだけでなく、ゲーム性もより高めることができる。

デバイスとしてのiPod touchの長所として最後にエリス氏が挙げたのは携帯性、スリムさ。「ニンテンドーDSはiPod touchの4倍くらいの体積で、倍くらいの重さ。NGPも4倍くらいの大きさになります」というように、シャツの胸ポケットにも入るようなiPod touchのスリムさはひとつのセールスポイントになるだろう。

高解像度のRetinaディスプレイにより、ゲーム機としてのiPod touchの表現力は大きく高まった

スリムさもiPod touchの大きな魅力。ニンテンドーDS Liteと並べてみれば、違いははっきりわかる

ゲームだけで8万タイトルを擁するApp Store

もちろん、デバイスがいかに優れていたとしても、遊べるゲームがなければどうにもならない。そこで力を発揮しているのが、ゲームをはじめとする各種アプリの流通経路であるApp Storeだ。先日App Storeからのアプリダウンロード数が100億本を超えたばかりだが、iPod touchのゲーム/エンターテイメントジャンルのみでそのうちの15億本を占めるという。また、登録されているアプリ数についても、全体で35万タイトルのうち8万タイトルがゲームだという。8万タイトルというのは無料のミニゲームなどを含んでの数字なので単純には比較できないが、任天堂によれば(PDF)ニンテンドーDSのタイトル数が約5,000本(2011年第1-3四半期時点)、またソニー・コンピュータエンタテインメントによればPlayStation Portableのタイトル数が約3,000本(2010年9月30日時点)とのことなので、文字通り桁が違うタイトル数だ。

App Storeからのアプリダウンロード数は先日100億を突破。このうちの15億本がiPod touchのゲームおよびエンターテイメントジャンルのダウンロードだという

エリス氏によればアプリダウンロード数100億のうち70億、総タイトル数35万のうち20万が昨年1年にダウンロード・登録されたものだというから、ユーザーの増加・デベロッパーの増加ともにペースがあがっていることがわかる。このデベロッパー数の増加についてエリス氏は、「App Storeの魅力」と指摘する。App Storeは現在90カ国に展開されており、デベロッパーはディスクやカートリッジを製造することなく、世界中のユーザーにアプリを販売・配布できる。このマーケットの広さ、ディストリビューションのハードルの低さがデベロッパーを惹きつけているというのだ。

デバイス数でみても、iPod touch/iPad/iPhoneを合わせたiOSデバイスの総販売台数は1億6,000万台以上と、すでに(コンソールを含めた)ゲーム機でも匹敵するものがない状態。さらにデベロッパーにとっては、「iOSデバイスが統合的なユーザー体験を提供しているプラットフォーム」であるということも重要だという。たとえば、Android搭載のスマートフォンではディスプレイの解像度や装備するインタフェース(ボタンなど)も機種ごとにまちまちだが、iOSデバイスではデバイスのバリエーションが最小限で、統合されたインターフェース設計となっている。この違いにより、iOS向けアプリの開発はAndroid向け開発にくらべて負担が軽い。これがデベロッパーの参入を促すというわけだ。