「OSSの活用、PaaSの活用、アプリケーションの構造改革。その3つを同時に実行することで、ビジネスのスピードとコスト削減の獲得を目指す」

三菱東京UFJ銀行でシステムエンジニアを長らく務め、現在Cスタジオの代表取締役という立場でコンサルティングを行なっている千貫素成氏は、12月8日に開催された「ジャーナルITサミット - 2010仮想化セミナー」の基調講演でそう語り、企業が仮想化技術を活用する際の障害やポイントを解説した。

「仮想化の3つの障害」に対する解決策

Cスタジオ 代表取締役 千貫素成氏

仮想化によるサーバ統合は、サーバやディスクの追加、能力変更が瞬時にできたり、動的な資源割り当てによって、容量を節約できたりと、企業にとって多くのメリットをもたらすものだ。だが、千貫氏によると、実際に企業が仮想化に取り組むにあたっては、大きく以下の3つが障害になりやすいという。

1つ目は、ミドルウェアのライセンスコストが高いこと。「DBMSやAPサーバコンテナなど、多くのメジャーなミドルウェアはCPUのコア数に比例するライセンス体系であるため、サーバ追加や能力増強を瞬時に行うことは困難」(同氏)になってしまう。2つ目は、環境構築の手間は変わらないこと。仮想化環境では、ハードの手配は瞬時に行えるものの、アプリケーションを稼動させるのに必要なOS、ミドルウェアに対するパラメータ設計、導入、設定作業、テストの手間は従来と変わらない。このため、実際には、アプリケーションを瞬時に稼働させることは困難になりがちなのだ。そして、3つ目の障害としては、既存システムの移行コストを回収できないことが挙げられる。仮想化環境に移行する際のデータ移行作業やアプリケーションの動作検証にかかるコストが大きく、投資に見合わないのだ。

こうしたライセンスコスト、環境構築の手間、移行コストという3つの課題に対し、千貫氏が提案するのが、冒頭で述べた「OSSの活用」、「PaaSの活用」、「アプリケーションの構造改革」である。

もっとも、単にOSSやPaaSなどを導入しさえすればよいというわけではなく、活用のポイントがある。OSSの活用については、「コンシューマライゼーション」、「基幹系DBサーバのブラックボックス化」、「ホワイトボックスとブラックボックスの棲み分け」を意識することが重要という。コンシューマライゼーションとは、先進的なコンシューマ向け技術をエンタープライズ環境にも積極的に取り込もうという考え方だが、従来から定評のあるApache HTTPServer、JBoss、MySQLといったOSSはもとより、近年実装例も増えてきているMongrel、memcashed、Apache Hadoop、MongoDBなどの技術も含めてエンタープライズ環境に適用していこうというもの。

そして、その際には、基幹系DBサーバについては、仮想マシンとOSSの適用外とし、単一ベンダーによってブラックボックス化するといった対策が望ましい。「ブラックボックスは、比較的高い投資負担が必要ではあるものの、中身すべてが単一ベンダー製品であるため、安定稼働責任を製品ベンダーに負わせることができるメリットは大きい」(同氏)。そのうえで、APサーバを、仮想マシンとOSSを組み合わせてホワイトボックス化し、「圧倒的コストメリットを生かした冗長構成を組むことにより、信頼性を確保する」(同氏)わけだ。

PaaSの活用については、インフラだけを仮想化(IaaS)しても、ビジネスに追随できるスピードが得られないことを指している。インフラのみならず、プラットフォーム(OS、ミドルウェア)をカバーするアプリケーション統合基盤(PaaS)を作ることで、真のスピードが獲得できることを強調した。

共通フレームワークの自社開発がカギ

OSSの活用、PaaSの活用に加えて、重要なのが「アプリケーションの構造改革」だ。これは、最新かつオープンな技術を積極的に採用し、それらを組み合わせたアプリケーション構造をデザインすることで、アプリケーションの開発・保守の生産性を高めることを指す。「最小限の工数ですばやく機能追加や修正が可能な構造にアプリケーションを再構築することで、維持管理コストを削減」(同氏)するわけだ。

こうしたアプリケーションの構造改革を進めるうえで、カギになるのが「共通フレームワークの自社開発」である。先進的なOSSをアプリケーション開発者が自由に利用することは、技術的なリスクもともなう。そこで、OSSをラッピングする上位ソフトウェアとして、「共通フレームワーク」を自社開発し、アプリケーション開発者には、検証済み技術のみを提供、共通フレームワークを維持管理するガバナンス体制を敷いていくことが重要になる。

千貫氏は、共通フレームを自社開発することの意義として、(1)自社で独自開発することで、常に最新技術を取り込みながら進化を続けることができる、(2)ミドルウェア層以下の不具合発生時に、上位層の共通フレームワーク層にて、不具合を吸収し回避することができ、システムが安定する、(3)業務アプリケーションの突発的、例外的な要求にも柔軟に対応でき、ビジネススピードに貢献できるといった点を挙げる。

そして、「常に最新技術を評価、適用するサイクルを回しながら、全体アーキテクチャを継続的に進化させ続けることがIT部門としての競争力につながる」と講演を締め括った。

※ 千貫氏の講演動画を以下の「2011 仮想化オンラインセミナー」で無料公開(マイコミジャーナル会員IDと簡単なアンケートへの回答が必要)しています。本稿ではお伝えしきれなかったナレッジも紹介しているので、ぜひそちらも併せてご覧ください。