よりインタラクティブな電子出版の世界へ

電子出版の領域で重要なのは、雑誌などの媒体が持つ独自の表現スタイルを尊重し、その個性を引き出すことにあるとLynch氏は指摘する。現状のWebサイトでは利用できる表現方法が限られており、差別化することは難しいが、タブレットという新しいデバイスの中ではより紙媒体以上にその個性を強く演出することができる。

壇上にはライフコーディネータとして名高いMartha Stewart氏が呼ばれ、iPadを使って電子雑誌「Martha Stewart Living」などのデモンストレーションした。電子雑誌では、ビデオやさまざまなインタラクションをふんだんに使うことで、紙では不可能だった新しい表現を取り入れることができる。「デバイスがもっと普及すれば、マガジンはもっともっと素晴らしいものになる」とStewart氏は語った。

Martha Stewart氏とKevin Lynch氏

このようなインタラクションの技術はAdobeからも提供される。Lynch氏はHTML5のコンテンツ上で画像を自由に配置することができる「ダイナミックラッピング」という技術を紹介した。画像が置かれた場所に応じて、テキストが画像を回り込むように自動でレイアウトの調整が行われる。この機能はレンダリングエンジン「WebKit」に取り込まれる予定とのことだ。

ダイナミックラッピングのデモ。テキストが人の写真を避けて回り込んでいる

企業における電子出版をトータルでサポートする「Adobe Digital Publishing Suite」の発表も行われた。これはディジタルコンテンツの作成から電子書籍や電子雑誌の作成、消費者への配布や販売、その後の分析までをトータルでサポートするスイート製品。であり、企業による電子媒体での出版をトータルにサポートするとのことである。Adobe Creative Suite 5やInDesign CS5をベースに作成されており、ベータ版が公開された。

Flash搭載のGoogle TVとAdobe AIR for TV

ビデオの領域では、TVに対する新しい2つのソリューションが紹介された。ひとつはWebブラウザ方面からのアプローチであり、もうひとつはデバイス方面からのアプローチだとLynch氏は説明している。

まずWebブラウザ方面からのアプローチとは、5月のGoogle IOにおいて発表された「Google TV」である。Google TVではAmazonのビデオライブラリにあるHDストリーム動画の再生や、HBOのビデオ配信サービスの利用などを行うことが可能だが、これらの機能はFlash Playerが搭載されることで実現したという。

Flash Playerそのものの技術も向上している。まず、前述のストリーミング動画の再生は新たに追加された機能のひとつである。また、Webブラウザ内からでもGPUのハードウェアアクセラレーションの利用できるようになり、よりスムーズな動画の再生が可能になるとのことだ。

一方でデバイス方面からのアプローチとして紹介されたのは「AIR for TV」。文字通りTVの中でAIRアプリケーションを動かすことができる技術である。このAIRアプリケーションはTVのリモコンで操作できるほか、スマートフォンなどとも連携することもできる。AIR for TVはTVメーカーとの協力によって実現するとのことで、すでにSDKがメーカーに渡されており、TVやブルーレイレコーダーなどに組み込まれて提供されることになる。

Flash Player搭載のGoogle TVとAdobe AIR for TV