かつてPCで行っていたパーソナルコンピューティングやインターネット利用がスマートフォンやタブレットなどに広がっている。米Intelはこれらをスマートデバイスと呼び、Intel Architecture (IA)をベースとしたコンピューティングを、その全体に行き渡らせようとしている。Intel Developer Forum (IDF) 2010のオープニング基調講演において、同社の社長兼CEOのPaul Otellini氏はスマートデバイス向けのソリューション提供に軸足を置く新戦略を説明し、次世代プロセッサファミリー「2nd Generation Intel Core processor」(コーネーム:Sandy Bridge)を含む、いくつかのソリューションのデモを披露した。

Intel社長兼CEOのPaul Otellini氏

チップベンダーとしてスタートしたIntelは00年代前半に、モバイルPC市場の開拓を目指して、モバイルプロセッサとチップセット、ワイアレス機能を組み合わせたモバイル・プラットフォームを投入した。以降PCプラットフォームは、プロセッサとともに同社のロードマップに組み込まれるようになった。PC市場では現在1世帯1台から1人1台へのシフトが進み、今年・来年とそれぞれ18%の伸びが見込まれている。世界規模ではインストールベースで14億台のPCが存在するという。だが、今日のパーソナルコンピューティングの主流はPCではない。PCを含むスマートデバイスである。現在インターネットに接続するデバイスは約50億台。そのうちスマートデバイスは28億台を占める。インターネット接続デバイスは今後スマートデバイスを中心にグローバル規模で増加し続け、IDCの予想では2020年には310億台に達するという。

PC市場は新興市場を中心に、順調に拡大。2010年には1日の販売台数100万台を記録

パーソナルコンピューティングの成長は、PCを含むスマートデバイスで起こっている

そこでIntelはスマートデバイス市場にターゲットに「フルソリューション・スタックの提供を目指す」という。具体的には、パートナーや開発者に提供してきたソリューションを、従来のハードウエア・プラットフォームからソフトウエアとサービスにも拡張する。

スマートデバイスには、PC、モバイルPC、スマートフォン、タブレット、スマートTV、車載デバイスなど様々な形があり、これらのデバイスの間をユーザーがシームレスに移動できる環境が求められる。特定の目的に対応する柔軟性と互換性が肝要である。Intel従来のハードウエアプラットフォーム・ソリューションでは、パートナーや開発者がコストを抑えて効率的に製品を開発できる一方で、ライバルとの差別化を図りにくいという難点がある。画一的な製品では、スマートデバイスの広がりは実現できない。ソフトウエアとサービスも包含したフルソリューション・スタックは、パートナーや開発者にプラットフォーム・モデルのメリットと共に、スマートデバイスを実現する柔軟性をもたらす。

  • 組み込みOS大手Wind River Systems買収 (2009年6月)

  • セキュリティ関連ソフト大手McAfee買収 (2010年8月)

  • Texas Instruments (TI)ケーブルモデム部門買収 (2010年8月)

  • Infineonの無線ソリューション事業買収 (2010年9月)

Intelによるこれらの買収は、一見するとまとまりのない事業拡大のように映るが、いずれもソリューション・スタックを補っていくための戦略的な一手である。例えばTIのケーブルモデム技術は、TVとネットを融合させるスマートTV実現の重要な要素になる。McAfeeの技術がもたらすソリューションの一例としてOtellini氏は"known good"モデルを挙げた。既知の攻撃や悪意のあるプログラムを検出する従来のセキュリティを"known bad"モデルとすれば、"known good"モデルは逆に信頼できるハードウエアで安全なソフトウエアだけが実行される環境を整える。ゼロデー攻撃をも防ぐ堅固なセキュリティの実現が期待できる。Infineonの無線ソリューション事業の技術は、スマートデバイスの3GおよびLTE対応をサポートする。

従来の半導体+プラットフォームを土台に、ソフトウエアとサービスを加えたソリューション提供に軸足を移したIntel

今日のコンピューティングの3本柱「効率的なパフォーマンス」「セキュリティ」「インターネット接続性」

ムーアの法則を追い続ける半導体技術はすべての土台。22nmプロセスの開発は順調に進行しているという

Otellini氏は2007年に統合グラフィックスのパフォーマンスが2010年には10倍増と予想したが、実際には25倍増に。プラットフォーム強化も万全

基調講演終盤のスマートデバイスのソリューション・デモは、まずSandy Bridgeのグラフィックス性能からスタート。グラフィックス統合型のSandy Bridge搭載ノートPCと、独立したグラフィックスカードを備えたノートPCの両方で「Starcraft ll: Wings of Liberty」をプレイ。ディスクリート・グラフィックスに劣らないリッチな表現をアピールした。

左がSandy Bridge搭載ノートPC、右がディスクリート・グラフィックス搭載ノートPC。違いが分からない……そこがポイント

続いてAtomを採用したGoogle TVでのTV番組視聴とWeb(Facebook)利用の共存を説明。最後に3台のPC間で256-bit暗号化によるビデオストリーミング・カンファレンスを行い、その中でAtom搭載のタブレットを用いたIntel Wireless Display (WiDi)のデモを初披露した。

Google TVを備えたTVでPBSの番組を見ている最中にFacebookをチェック。デュアルモードでFacebookのウインドウの右下にPBSの番組を維持

256-bit暗号化のライブビデオ・カンファレンス。使用しているサーバは、次世代のXeonプロセッサ・プラットフォーム"Romly"

Intel Wireless Displayのデモ(左)。開発版のAtom搭載タブレットで再生しているビデオを、ワイアレスでTV画面に表示