最初のゲストスピーカーは、アライアンス・ポートの山辺真幸と小川裕子。彼らの業務は、ブックデザインからウェブデザイン、映像・音響制作から情報システム構築まで、多岐にわたるが、今回は、ウェブ環境のタイポグラフィに焦点を合わせ、複数の具体例を提示した。

Guest 01 アライアンス・ポート

2006年、代表社員として大和比呂志氏、技術業務担当執行役員に山辺真幸氏が就任し創業。テクノロジーとデザインを結んだ新しいタイプのデザインカンパニーとして、数々のウェブサイトをはじめブランディングツール、情報システムの構築や書籍のエディトリアルなどを行う。また、デザインとエンジニアリングの周辺領域をテーマとした交流会「Salon de AP」を定期的に開催。

山辺真幸 YAMABE Masaki

1977年生まれ。株式会社永原康史事務所を経て、2006年に合同会社アライアンス・ポートを設立。継続して公共性の高い数々のサイトのウェブディレクション、コンサルテーション、CMS構築を手がけている。アルゴリズミックデザインをテーマに、プログラミングや電子デバイスを使った表現活動も行っている。



小川裕子 OGAWA Hiroko

九州芸術工科大学(現九州大学)、岐阜県立情報科学芸術大学院大学(IAMAS)を経て、2003年から株式会社GKグラフィックスで、デザイナーとして勤務。主に、サインデザイン、地域や企業のヴィジュアルデザインの仕事に携わる。2007年月よりデザイン担当業務執行社員としてアライアンス・ポートに参加。


ウェブ環境におけるタイポグラフィの可能性を提示

小川が開発した「ウェブタイポグラフィツール」は、グラフィックデザインにおけるグリッド・システムの考え方を、ウェブデザインにも応用しようという試みだ。現在、ベータ版が、アライアンス・ポートのサイトで公開されている。

「ウェブデザインの場合、印刷物のように、最終的な出力形態がひとつに固定されているわけではないので、OSやブラウザなど、ユーザーのネット環境によって、見え方が変わってしまいます。このツールは、そうした状況を改善しようと、各環境における文字組をグリットをベースとして手軽に検証できるものとして開発しました」(小川)

タイポグラフィック・グリッドとウェブデザインの親和性を実証する「ウェブタイポグラフィツール」。アライアンス・ポートのウェブサイト内で利用可能

グリットのユニットサイズ、ユニット間などをpx単位で検証しながらレイアウトできるツールも作成

山辺は、研究開発の一環として、試験的に運用している「ランダムタイポグラフィ」や「フラクタルタイポグラフィ」を紹介。前者は、書体やサイズ、字間や行間を、無作為に抽出・指定するものであり、後者は、フラクタル幾何学の考え方を導入し、全体と細部が自己相似形をなす組版を実践するという刺激的なものだ。ここでは、グラフィックデザイン起源のグリッド・システムから、一歩先に進み、ウェブデザインならではのアプローチ、つまり、プログラムを組むことで、テキストの見せ方を制御しようという意志が働いている。

「紙のような固定的な資材ではなく、オンスクリーン・メディアのような流動性の高い媒体に文字を並べることが、この先、常態化していくと思います。そのとき、どういうことが可能になるのか。ランダムタイポグラフィやフラクタルタイポグラフィは、我々を取り巻く環境の変化から発想したものです」(山辺)

原文をJavaScriptで読み込み、書体やサイズ、字間や行間、禁則等を無作為に抽出する「ランダムタイポグラフィ」。リロードのたびに違う組み方がなされる(左)。文字組みにおける全体と部分の類似性を、フラクタル幾何学の考え方をもとにして組版を構成する「フラクタルタイポグラフィ」。スクリーンメディア特有の文字による表情が生まれる(右)

アライアンス・ポートは「漢字仮名交じり文を縦書きする」という日本語ならではの表記法を、ウェブでも再現しようと、試行錯誤を重ねている。Movable Typeを使い、新聞のように表示できるブログソフトウェア「新聞ブログ」の開発も行っている。

シックス・アパートと共同開発した「新聞ブログ」。ユーザーはほとんどプログラムをコントロールすることなく、自動で組版がなされるMovable Typeのプラグイン

「ウェブはまだ発展途上。技術的な制約を受けることも多々あります。しかし、ゆきとどかない部分は、プログラムを組んで、解消すればいい。その点、紙メディアとは異なる自由さがあるのではないかと思っています」(山辺)