ガートナー リサーチ ガートナーフェロー マッシーモ・ぺッツィーニ氏

ガートナー ジャパンは7月12日・13日、「アプリケーション&アーキテクチャ サミット」を開催した。同イベントでは、クラウドコンピューティングやSaaSなど、アプリケーション・インフラストラクチャに関連したテクノロジーのトレンドを解説し、将来に向けてのアプリケーション環境づくりに向けた提言を行った。

13日の基調講演では、ガートナー リサーチ ガートナーフェロー マッシーモ・ぺッツィーニ氏が「クラウド・コンピューティング向けアプリケーション・プラットフォーム:だれが、なぜ、いつ 」というテーマで講演を行った。ここでは、その内容をお届けしたい。

クラウド対応のアプリケーションプラットフォームの特徴

同氏は、クラウドコンピューティングのアーキテクチャは、アプリケーション・サービスを提供する「SaaS(Software as a Service)」、アプリケーション・インフラストラクチャ・サービスを提供する「PaaS(Platform as a Service)」、システム・インフラストラクチャ・サービスを提供する「IaaS(Infrastructure as a Service)」の3層から構成されていると説明した。

クラウドコンピューティングを利用する際、「システム・インフラストラクチャ・サービスだけを利用するパターン」、「システム・インフラストラクチャ・サービスとアプリケーション・インフラストラクチャ・サービスを利用するパターン」、「すべてのサービスを利用するパターン」と3つのパターンがある。

「それぞれのパターンで得られるメリットが異なる。システム・インフラストラクチャ・サービスだけを利用する場合は、ハードウェアのプロビジョニングが迅速に行うとともに、管理を委託することが可能になる。システム・インフラストラクチャ・サービスとアプリケーション・インフラストラクチャ・サービスを利用する場合はプロビジョニングを迅速に開始・導入・変更できるようになり、また、すべてのサービスを利用する場合はアプリケーションの迅速なプロビジョニングが行えるようになる。導入してすぐにメリットを得たい場合は、すべてのサービスを利用するべきだろう」と同氏。

さらに同氏は、クラウド対応のアプリケーションプラットフォームの特徴として、「マルチテナント」、「弾力性」、「グローバル規模の高度な拡張性」、「他社との統合/コンポジション」を挙げた。「単一のプラットフォームやアプリケーションを共有するパブリッククラウドでは、テナント間で何が起こっているかを知らせないようにすることが必須であり、"マルチテナント"が問題となる」

マルチテナントにおいては、「テナントごとに完全に切り分けること」、「テナントのカスタマイズ」、「テナントのセキュリティ」、「アプリケーションのバージョン管理」などを行う必要がある。同氏によると、今後、ハードウェアを共有するマルチテナントからすべての層を共有するマルチテナントに移行していくだろうという。

なお同氏は、クラウドコンピューティングと企業内のアプリケーションを結び付ける手段として、SOAが不可欠だと指摘した。そして、SOAアプリケーションのどの層においてクラウドを取り入れるかを決めることになる。

積極的なMicrosoftに対し、慎重なIBMとOracle

同氏は次に、クラウドコンピューティングに関わる主要なベンダーの動向について説明を行った。

最初に名前が出たSalesforce.comについては、アプリケーション・サービスとアプリケーション・インフラ・サービスを提供しており、「進んでいる」と同氏。また、同社は今年に入ってVMwareと提携を発表しており、今年中にJavaアプリケーション向けのクラウドプラットホーム「VMforce」がリリースされる予定だ。これにより、アプリケーションの統合性がより深まることが予想される。

IBMとOracleについては、「クラウドコンピューティングについて、研究開発を行っているが、ビジネスとして儲かるかどうかを慎重に見極めている状態」と、同氏は表した。IBMがクラウドコンピューティング分野に本格的に参入するには1年から2年かかるのではないかという。

両社に対し、クラウドコンピューティングに対して積極的に取り組んでいるのが、Microsoftだと同氏は述べた。クラウドコンピューティングに対する戦略が明らかであり、同社において重要なテクノロジーとして位置付けられていることがわかるという。

クラウドを導入する際にやるべきこと - 今すぐ、1年以内、3年以内

同氏は、今年にクラウドコンピューティングを導入する場合のメリットは、企業規模によって異なると説明した。

SaaS層をクラウドコンピューティングとして利用する場合、大企業であれば独創的なアプリケーションを利用するというメリットが、中小企業であればITにかかるコストの負担を削減できるというメリットがある。「Salesforce.comを利用しているユーザーはクラウドコンピューティングを利用したいから同社のアプリケーションを利用しているのではなく、同社のアプリケーションを利用したいからクラウドコンピューティングを利用しているのだ」

まだ、大企業がIaaS層をクラウドコンピューティングとして利用する場合、プライベートクラウドならコスト削減が可能になり、パブリッククラウドは期間限定のプロジェクトなどに用いることでメリットを得られるという。

同氏は最後に、クラウドを導入したい企業が行うべきことを、「今すぐ」、「1年以内」、「3年以内」と、時期別に教えてくれた。

まず、今すぐ手をつけるべきこととしては、「クラウドコンピューティングを導入する際の選択肢に精通し、小規模かつ低リスクのアプリケーションプラットフォームサービス型アプリケーションのパイロットを行うことでクラウドコンピューティングの感触をつかむ」ことが挙げられた。

1年以内に実行すべきこととしては、「クラウドコンピューティングとアプリケーションプラットフォームサービスを併用して、自社に現実的なメリットをもたらす低リスクの機会を探すこと」、「SOA型アプリケーションとインフラへの投資を継続すること」、「大手ソフトウェアベンダーの動向を押さえておくこと」などが挙げられた。

3年以内に実行すべきこととしては、「ミッションクリティカルなビジネスアプリケーションのプロジェクトにアプリケーションプラットフォームサービスを用いて、自社で運用しているアプリケーションとツールを補完する準備をすること」、「異種混在のコンポーネントでアプリケーションを構築するための統合とコンポジションのスキルを強化すること」が挙げられた。