みなさんもよくご存じであろう小惑星探査機「はやぶさ」があと1カ月ほどで地球に戻ってくる。我々の心情的には「帰ってくる」と言うべきかもしれない。動画投稿サイトに宇宙戦艦ヤマトの真田さんを絡めた動画が投稿されるほどさまざまな問題(というより試練)に直面し、それを解決してきた運営関係者の皆さんの努力とはやぶさ本体に胸を熱くした人も多いと思う。

はやぶさの帰還予定は6月だが、今年2010年は他にも宇宙関連のイベントが多数あるので楽しみにしている人も多いだろう。野口聡一さんがISSに長期滞在してTwitterに美しい写真を投稿していたり、山崎直子さんがISSに来るのがネット中継されたり、金星探査機「あかつき」に有志が作ったデザインのパネルが搭載され、小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSと一緒に打ち上げられたりと、今までに比べてもインターネットに開かれたイベントが多いので楽しんでいる人も多いのではないかと思う。

ロケットやスペースシャトルの打ち上げを見ていると、いつの間にかあんなに大きな物がいつの間にかできあがっているなと思いがちだ。しかしよく考えてみると道ばたに落ちているわけでも勝手に生えてくるわけでもない。誰かが作らないと発射台には立っていないのだ。誰でも作れるというわけではないが、謎の古代超科学が作り上げたものではなく現代の人間が持つ技術の集大成がロケットであり、スペースシャトルなのだ。今回紹介する「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業 Vol.1」は、そんな宇宙開発を支えた産業を取り上げた書籍だ。

表紙は三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所の飛鳥工場にて、製造中のH-IIAロケット内部から作業中の技術者を撮影したものとなっている

本書はフルカラーのA4サイズで、中は文章よりも写真が多い構成になっている。ロケットや人工衛星の組み立ての様子の写真が多く、大変興味深かった。特に筆者が気に入ったのはH-IIBをVAB(大型ロケット組み立て棟)から発射台に移動するのをVABの上から撮った(らしい)写真だ。種子島の見学コースでVABのそばに行くことはできるが、さすがに上まで上らせてもらえることはないし、ましてそれがロケットの移動時となればなおさらだ。他にもH-IIBの組み立て写真は大きい物がたくさん写っていて面白い。

H-IIBロケットがVABから、打ち上げ前日に発射場へ運ばれる様子

また、人工衛星の組み立てラインのはんだ付け風景も興味深かった。人工衛星の基板のはんだ付けはプロ中のプロの仕事だと聞いてはいたが、実際にはんだ付け作業や基板を見ることはあまりないからだ。

他にも日本のロケットや人工衛星の商業的な位置(簡単に言うと、商業的には成功していない)や、宇宙産業にかかわる中小企業のインタビューなども考えさせられる内容だった。海外のロケットや人工衛星にも日本企業の技術は多く採用されているそうなので、その点は良いのだが、やはり日本の技術を使った国産のロケットがばんばん上がるような時代になってほしいものだ。

本書を読んで大変面白かったのだが、ちょっと残念だったのはロケットが精密機械産業であるということだ。もちろんおおざっぱに作ってほしいという意味ではないし、成功率を100%に近づけるために精密さが求められるというのもわかる。しかし熟練した技術者が時間をかけて精密な手作業で作らないといけないということは、どうしても高価で少数しか作れない物になってしまう。宇宙に行きたいと思っているのは筆者だけではないと思うが、これだけ精密な機械でないと行けないようだと、当分自分の順番は回ってこないなぁと思ってしまうのだった。SFのようなアバウトな(にしか見えない)機械でもひょいと宇宙に行ける時代はやってくるのだろうか。

将来はともかく、現在の日本や世界の宇宙開発を支えているのが日本の企業で、それも大企業だけではなく中小の企業も多く含まれているというのがわかる本書は、宇宙産業というものの存在を知らしめるという意味でも、また開発の現場写真が多く見られるという意味でも、面白い本だと思う。

宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業 Vol.1

発行 日経BP出版センター
発売 2010年4月8日
形・ページ 大型本・98ページ
ISBN 978-4861304514
定価 1,000円
出版社から:魅力あふれる宇宙産業の現状と未来を、読者に正確かつわかりやすく伝えるために、日本の宇宙産業の全貌を紹介し、そのすそ野の広さを示すとともに、宇宙産業に従事する人たちにもスポットを当て、宇宙産業にみなぎる熱い思いが伝わる誌面になっています。