宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき(PLANET-C)」などを搭載したH-IIA 17号機が、2010年5月21日6時58分22秒にJAXA種子島宇宙センターより打ち上げられた。

当初の打ち上げ予定であった5月18日は、氷結層を含む雲が確認されたことから打ち上げ直前になっての中止を発表。その後、燃料の入れなおしなどを行い、21日が2度目の挑戦となった。

H-IIA 17号機の打ち上げの様子

当日、打ち上げ場所となった種子島は元より、各所で行われたパブリックビューイングにも大勢の人が訪れた。打ち上げ後の運用管理を行うJAXA相模原もパブリックビューイングの開催場所の1つとなり、打ち上げ延期となった前回に比べて倍近くの約100名の人が会場を訪れ、満席状態で立ち見で溢れかえった。気温21,2℃、北北東の風2.4m/sの薄曇りの中、カウントダウンを経てエンジンに点火、H-IIAが飛翔する様子が映し出されると会場はどよめきと歓声が沸き起こった。

JAXA相模原で開催されたパブリックビューイングの様子。席に座れない人が立ち見で打ち上げを見守った

あかつきに与えられたミッションは、地球の兄弟星と言われる金星の大気の謎を解明すること。金星は大きさや距離が地球と似通っているにも関わらず、大気は高温の二酸化炭素に包まれ90気圧に達し、硫酸の雲が浮かぶという地球とはまったく異なる環境が構築されている。特に、「超回転(スーパーローテーション)」と呼ばれる秒速100mの風が一定方向に流れており、それを中心に観測するための5台の観測カメラ(中赤外線:LIR、紫外イメージャ:UVI、1μmカメラ:IR1、2μmカメラ:IR2、雷・大気光カメラ:LAC)が搭載されている。

「あかつき」の切り離しの様子(提供:JAXA)

研究課題としては、以下のものが主な予定となっている。

  • 波動や乱流の網羅的観測とそれらの超回転への寄与の解明
  • 子午面循環の構造の解明
  • 雲層内の物質循環とその雲層維持における役割の解明
  • 雷放電の時空間分布と発生過程の解明
  • 大気光の時空間変動と上層大気循環の解明

H-IIA 17号機にはあかつきのほか、相乗り衛星としてあかつき同様金星方面を目指す小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」や大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)が開発した大学が開発した宇宙用コンピュータの実証を行う「しんえん(UNITEC-1)」、高度300km付近で切り離し、地球を周回する早稲田大学の「WASEDA-SAT2」、鹿児島大学の「大気水蒸気観測衛星(KSAT)」、創価大学の「Negai☆"」の5機が搭載されており、これらも無事に切り離しが確認されており、KSAT、Negai☆"に関しては両大にて8時30分過ぎに衛星からの電波を受信、WASEDA-SAT2については途切れ途切れの電波受信状態で、正しい電波かどうかの確認中となっている。

KSATの切り離しの様子(提供:JAXA)

WASEDA-SAT2の切り離しの様子(提供:JAXA)

Negai☆"の切り離しの様子(提供:JAXA)

また、あかつきには国内外から26万人を超す応援メッセージが寄せられ、それらはアルミプレートとしてあかつきに搭載、ともに現在、金星に向かっている。こうした多くの人からの応援について、PLANET-Cプロジェクトマネージャの中村正人氏は打ち上げ直前に「多くの人たちがあかつきを愛していただき、本当にありがとうとお伝えしたい。金星から戻ってくることはありませんが、金星から地球に向けてメッセージを送り続けることができれば、と思っています」と語ってくれたほか、打ち上げ直後の会見で、「応援ありがとうございます。これからもJAXAとして惑星探査の歩みを止めるつもりはないので、注目していて欲しい」と今後も惑星探査をJAXAが推し進めていくことを強調した。

JAXA相模原には「あかつき」に搭載されたものとまったく同じ応援メッセージを記したアルミプレートが展示されている

なお、あかつきの金星到着についてJAXAでは現時点では2010年12月7日を予定している。