構造改革の成果は「筋肉質な体質への転換」

売上高は大手8社のすべてが減収。営業利益は、前年の赤字から黒字転換したソニー、東芝、NEC、シャープをはじめ、全社が黒字化。だが、最終損益では、日立製作所、パナソニック、ソニー、東芝が赤字となった。その一方で、構造改革の成果として、「筋肉質な体質への転換」を挙げる企業が相次いだのが、今回の決算の特徴だったと言えよう。

韓国サムスンなどに比べて収益性の低さを指摘する声も上がるが、構造改革の予想以上の成果は、各社に共通したものだ。これが黒字化にも大きく寄与している。

「2,600億円の固定費削減計画に対して、3,715億円の固定費を削減。目標を1,000億円上回ることで、損益分岐点を12%引き下げた」(パナソニック・上野山実常務取締役)、「下期から200億円を積み増して2,900億円の削減目標としたが、結果は3,209億円と計画を11%上回った。2010年度も筋肉質な体質をしっかりとキープする」(NEC・遠藤信博社長)、「3,300億円の削減目標を達成し、拠点の統廃合は予定以上に進捗した」(ソニー・大根田伸行副社長)、「2,000億円の総経費削減目標に対して2,138億円の実績となった」(シャープ・片山幹雄社長)というように、経営トップから削減効果に対するコメントが相次ぐ。

日立製作所でも「拠点の整理統合や人員規模の見直しによって、3,300億円規模の固定費の削減、集中購買の拡大やグローバル調達の強化などを実施し、3,100億円を削減」(日立製作所・三好崇司副社長)を達成している。そのほか、東芝も4,300億円の固定費削減、7,650億円もの調達コストの削減を達成している。

全社減収、全社黒字化を支えたのは、構造改革の予想以上の成果である点は間違いない。

NEC 代表取締役社長 遠藤信博氏

ソニー 代表執行役 副社長兼CFO 大根田伸行氏

シャープ 代表取締役社長 片山幹雄氏

日立製作所 執行役副社長 三好崇司氏

2010年度の注目製品は「薄型テレビ」

また国内市場では、エコポイント制度の効果もあって、薄型テレビ、エアコン、冷蔵庫が堅調な動きを見せるものの、制度変更後に買い換えサイクルが長期化している携帯電話事業では、海外市場に活路を求める企業が成長戦略に転じようとしている。

一方PCでは、収益性の確保に苦しむ企業が相次いでおり、さらなる体質改善が共通の課題になると言えよう。

情報・通信部門では、企業の投資意欲の停滞が大きく影響しており、本格的な回復には今ひとつという状況は否めない。2010年度の投資意欲の回復がどこまで進展するのかが気になるところだ。

今後、動向が注目される製品の1つに薄型テレビがある。2009年度に1,584万台を出荷したパナソニック、1,560万台を出荷したソニー、1,018万台を出荷したシャープは、いずれもテレビ事業が赤字。これらに対し、パネル生産拠点への投資がない東芝が利益を確保しているという状況だ。パナソニック、ソニー、シャープにとっては、2010年度以降の黒字化が大きな課題になるのは紛れもない事実だ。

そうしたなか、2010年度はパナソニックが2,100万台、ソニーは2,500万台、シャープは1,500万台、東芝が1,500万台という成長戦略を掲げており、黒字化とともに、グローバルで戦える体質が本当の意味で試されることになる。

2010年度の課題は成長戦略へのシフト

パナソニック 代表取締役社長 大坪文雄氏

下期から回復の兆しを見せた企業が多いなか、2010年度はいかに成長戦略へとシフトできるかがカギになる。

実際、2010年度の業績予想を見ると、売上高見通しはNECを除く7社が増収を見込む。そのNECも、減収理由は半導体事業をルネサステクノロジと経営統合した影響によるもので、これを除くと前年比5%の増収計画を打ち出すことになる。

そして、全社が営業黒字の拡大と最終黒字を目指す利益拡大を前提とした成長を前提とした計画となっている。

パナソニックは2010年度を初年度として発表した新中期経営計画「GT12」では、「成長へのパラダイム転換、成長をベースとした基盤づくりに取り組み、エレクトロニクスナンバーワンの環境革新企業を目指す」(パナソニック・大坪文雄社長)と成長戦略を柱に掲げる。

また、富士通の山本正己社長も、「2009年度までの構造改革により、成長に向けた足がかりはできた。グローバル事業領域の拡大と新たなビジネスの創造に乗り出し、富士通を元気にしていく」と語る。

東芝の佐々木則夫社長も「2009年度は成長に向けた着実な事業基盤を確保でき、2010年度からの中期経営計画では、利益ある持続的成長へ再発進する。2012年度にはグローバルトップの複合電機メーカーを目指す」とする。

富士通 代表取締役社長 山本正己氏

東芝 代表執行役社長 佐々木則夫氏

筋肉質な体質を維持したままで、2010年度の成長戦略をいかに計画通りに遂行できるかが、各社共通の課題であり、その成り行きが注目されよう。