日本人向けのアプリケーションやサービスを開発するプログラマにとって、文字コードに関する問題は避けて通れない道である。そこで本稿では、矢野啓介氏の著書である『プログラマのための文字コード技術入門』を紹介したい。矢野氏は仮名漢字変換プログラムSKKの第3・第4水準漢字辞書の開発に取り組むなど、文字コード技術について造詣の深い人物だ。

基礎知識からプログラミング技術まで、文字コードのすべてが400ページに詰まっている

文字コードに関する問題で我々にとって最も身近な例はいわゆる"文字化け"だろう。Webアプリケーションの開発者は、ユーザがWebブラウザに設定されている文字コードと、システムが内部的に利用する文字コードを適切に相互変換する必要がある。そのほかにも、UIやデータモデル、データフォーマットの設計など、文字コードの特性を理解していなければならない場面は無数に存在する。

それにもかかわらず、実情は文字コードについて本当に正しく理解しているプログラマはそれほど多くない。とくにマルチバイトの文字コードは日本語のものだけでも多くの種類があり、その違いや互換性の複雑さが理解を妨げているという面もある。

本書は、プログラマをおもなターゲットとして、文字コードに関して押さえておくべき知識が体系的にまとめられた解説書である。おおまかな構成としては次のようになっている。 1. 文字コードに関する基本的な概念やメカニズムの解説 2. 代表的な文字コードの紹介 3. 文字コードの判別や変換の方法 4. プログラミング言語における文字コードの扱い 5. トラブルシューティング

以下、各項目についてそれぞれ簡単に紹介したい。

文字コードについての基礎知識を身につける

まず第1章では文字コードとは一体どういうもので、なぜ必要なのか、どのような問題が発生し得るのかなどが紹介されている。最も基本的な話ではあるが、文字コード理解のためには不可欠な内容である。

代表的な文字コードについて知る

続く第2章では、「文字コードの変遷」として文字コードが現在の体系になるまでの経緯を、歴史的に重要な位置づけにある文字コードを取り上げながら紹介している。この章にはASCII、ISO/IEC 646、ISO/IEC 2022、JIS X 0208、ISO/IEC 8859、Latin-1、Unicode、ISO/IEC 10646といった文字コードが登場する。

そしてこの歴史を踏まえて、日本の開発者が知っておくべき符号化文字集合および文字符号化方式を詳細に解説しているのが第3章、第4章だ。ここで特に圧巻なのは、日本語情報処理では最も広く使われているJIS X 0208およびJIS X 0213の解説だろう。我々にとって馴染みの深いShift_JISやEUC-JP、ISO-2022-JPといった符号化方式はJIS X 0208に含まれるもので、日本語を扱う上でこれらに対する理解は不可欠と言える。

文字コード変換の仕組みと方法を理解する

第1章から第4章が「知識編」に当たる内容なのに対して、第5章以降は「実践編」となる。まず第5章で解説されているのは文字コード変換の仕組みや具体的な方法だ。特にiconvおよびnkfの2つのツールを用いてコード変換のやり方が解説されているが、それよりも特筆すべきなのは具体的な変換の仕組みが解説されている点だろう。これまでツールを使って何となく変換をかけていたユーザも、この章を読めばその仕組みを理解することができる。

符号化文字集合および文字符号化方式、そしてそれを相互に変換するための仕組みを正しく理解することは、文字コードに起因する問題を解決する上で極めて重要である。その点本書は、これが順序立てて解説されているため初心者にとっても非常に飲み込みやすい内容となっている。

第6章ではインターネット上での文字コードの扱いについて、電子メールやWebに関する技術を中心に解説されている。これらは文字化けを防ぐために欠かせない知識であり、とくにWebアプリケーションの開発者にとっては必読の章だ。

プログラミング言語で文字コードを扱う

本のタイトルに「プログラマのための」とついているように、第7章ではプログラミング言語における文字コードの扱いについて紹介している。とくに代表例として挙げられているのはJavaとRuby 1.8/1.9である。作者である矢野氏は、この2つを取り上げた理由として、それぞれが文字コードに対して異なるアプローチをとっているからだと説明している。

すなわち、Javaは当初から内部処理にUnicodeを採用していた言語であり、Ruby 1.9は内部処理を特定の文字コードに依存しないように設計した言語であるということだ。そしてRuby 1.8はASCIIを基本としてShift_JISやEUC-JPへの対応を追加したシンプルな日本語対応となっている。本書で紹介されているプログラミング言語はこの3種類だけだが、他の言語の文字コード対応を理解する上でも役に立つ内容である。

文字コードのトラブルに対処する

最終章である第8章は、文字コードに関するトラブルシューティングの方法を紹介する内容になっている。文字コードについてのありがちなトラブルについて、その原因や防止方法、解決方法などが紹介されており、現場での手引きとして参考になりそうだ。

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文字コードはプログラマにとって必須の知識でありながら、それを系統立って学習する機会はあまりない。本書を使えば文字コードについて基礎から実際の使用方法までをトータルで学ぶことができるので、現場における活用への足がかりになるだろう。この機会に、文字コードに関する理解不足や誤解を解消し、新しい武器として利用するための第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

プログラマのための文字コード技術入門

矢野啓介 著
技術評論社 発行
2010年2月18日 発売
A5判/400ページ
定価 2,709円
ISBN 978-4-7741-4164-0
出版社から: コンピュータにおいてテキストデータを扱う上で欠かせない文字コード。文字と符号(ビット組み合わせ)で形作られる文字コードの基本的な性質はシンプルです。しかし、文字コード、とりわけ日本語情報処理となると、数々の落とし穴が潜む、ときに専門的な知識が求められる、そのような難易度の高いイメージが漂うのはなぜでしょうか。本書では、文字そのものと、文字コードの歴史を少しずつ解きほぐしながら、文字コードの原則、変遷、おもな規格の要点をはじめとした基礎知識を丁寧に解説。さらに、Unicode、日本の文字コード規格、文字化けのメカニズム、コード変換の基礎、Java、Ruby 1.8/1.9での扱い、はまりやすい落とし穴とその対処など、広くソフトウェアエンジニアの方々、プログラマの方々へ、今知っておきたい技術情報を厳選してお届けします。