すべての垣根・障害を取り払うバリアフリー。その一翼、アクセシビリティという側面のこれからを担う人材育成が本格化してきた。アクセシビリティとは、様々な製品やサービスへのアクセスのしやすさを示す。高齢者や障害者を含むすべての人々が、それらのサービスを支障なく利用できるかどうか、その度合いを表すものである。独立行政法人日本学生支援機構、広島大学、マイクロソフトなどによって2009年6月に発足された「アクセシビリティリーダー育成協議会」の活動が今回さらに推し進められ、育成プログラムを経てアクセシビリティリーダー認定取得者の研修の場として催されてきたアクセシビリティリーダーキャンプが3月に開催された。

熱気がひしひしと伝わってくるアクセシビリティリーダーキャンプ、マイクロソフトでの研修のひとコマ

マイクロソフトが、かねてよりIT全般におけるアクセシビリティの向上を図ってきたのは読者の方々もご存じだろう。世界No.1のシェアを誇るOS「Windows」をはじめとしたマイクロソフト製品のアクセシビリティ機能向上はもちろんのこと、キーボードやマウスといったデバイス機器メーカー等との連携を強化し、すべての人々が自己の可能性を最大限に引き出せるようにと強い信念と責任を持って執り行ってきた。

2008年に開催されたCEATEC(【レポート】CEATEC JAPAN 2008 - マイクロソフトが考えるバリアフリーコンピューティング参照)での高齢者に対する取り組み、そして産学連携プロジェクト(【レポート】MSと広島大学による産学共同アクセシビリティプログラム - IT活用でのバリアフリーを目指して参照)を経て着実に歩を進めてきた。また、昨年末に発売となった「Windows 7」にもアクセシビリティ機能の拡充、性能の向上が計られていることから見ても、マイクロソフトが如何に真摯に「IT活用におけるバリアフリー化促進」「デジタルディバイドの解消」に取り組んでいくという姿勢が見て取れる。

「すべての人々が自己の可能性を最大限に引き出せるように」という、マイクロソフトの想いをより盤石なものへとステップアップさせたものが、今回お届けする産学官がタッグを組んだプロジェクトの「アクセシビリティリーダーキャンプ」というわけだ。

互いに意見し合うリーダーたち

本年度のアクセシビリティリーダーキャンプでは、日本アイ・ビー・エムによる視覚障碍者向け音声ガイドの講義・実習、富士通による人に優しいITについての講義・施設見学や、東京電力では設備のユニバーサルデザインの講義・実習、大日本印刷においては普段立ち入ることの出来ない研究施設の見学や包装のユニバーサルデザインについて講義・実習が行なわれた。取材を行ったマイクロソフトでの研修は、支援技術についての講義と"PowerPointを使った障碍を持つ児童向けの教材"の作成とプレゼンテーションを行うというもの。

こちらは「特別支援教育でのPowerPoint活用」と題してマイクロソフトで公開されているPowerPointスライド。漢字の書き順などが理解しやすいよう書き順に応じて色が変化するなどわかりやすく工夫がなされている

キャンプに参加した大学生を複数のチームに分け、各々が独自のアイディアを盛り込んだ教材を発表していった。

PowerPointのスライドで"音"を体感してもらうために、雨が降る景色に"ザー"という言葉を空から降ってくるアニメーションをさせて理解を深めてもらうという教材は参加学生からの評価も高かった

こちらはスライドのアニメーション機能を用いてじゃんけんをする教材。手が不自由でもパソコンを用いてじゃんけんを誰もが行えるというもの。プレゼンテーションが堂に入っており感心させられた

それぞれのチームが考えた教材をプレゼンテーションした後、活発な意見のやり取りが行われ、発表した教材をより良いものにするため議論が繰り返される

過去にアクセシビリティリーダーキャンプを取材した時とは異なり、本年度は様々な大学からの参加者が存在したからなのか、今まで以上に白熱した議論がなされていたのに驚かされた。「非常に良いアイディアだ」「その仕組みではADHDなどの児童には適さないのでは」と活発に論じ合う姿に、「ああ、本当の意味でのアクセシビリティリーダーが育ってきているのだな」と実感させられる。そしてこのプロジェクトが日本の将来に明るい希望をもたらしてくれるのでは、と強く予感させられた。

継続的かつ広範囲な取り組みへと進化してもらいたい

アクセシビリティリーダーとは、最初広島大学で行われていたカリキュラムが基で今に至る。今ではこの取り組みに賛同した大学が広島大学、関西学院大学、富山大学、広島文教女子大学、札幌学院大学、沖縄大学の6大学に加え、企業も富士通、日本アイ・ビー・エム、イフ、マイクロソフトの4企業へと拡がりをみせている。障碍を持つ人々の社会参画を促すためにも、こういった活動は継続的に行われ研修分野も広範囲に行ってもらいたいものだ。来年のアクセシビリティリーダーキャンプではどのようなカリキュラムが組まれ、どんな参加者が集まるのだろうか。内容の濃い研修が行われることは想像に難くない。1年も先の話であるが、大変に気になるところである。