プレゼンスを活用してスムーズな連絡を実現

2008年の更新時に、最新のマイクロソフト製品群を幅広くカバーする、政府および公共機関向けのライセンスプログラムである「Microsoft Enterprise Agreement for government organizations(GEA)」を採用していたため「Office Communications Server(OCS)」を利用することは容易だった。

プレゼンス情報はOffice Communicatorのほか、SharePointのポータル画面上にも表示できる。連絡可能、取り込み中、退席中の3種のプレゼンス状態が用意されており、現在連絡をしても良いかどうかの判断ができる仕組みだ。また受信側でも、どういった形で連絡を受けるのかを設定可能だ。

Office Communicatorで表示させたプレゼンス(氏名部分のぼかしは編集部で加工)

SharePoint上にプレゼンス情報(中央やや右にある赤と黄色の円)を取り込むこともできる(氏名部分のぼかしは編集部で加工)

「連絡可能時にもPHSに転送してもらうか、IP電話で受けるかを設定できますし、離席中の連絡をボイスメールで受け取るようにもできます。PHSの留守番電話機能よりも長時間のメッセージが、メールという形で受け取れるだけでも価値はあると感じています」と語る山野辺氏自身は、基本的にはPHSに転送して連絡を受けているという。慣れたユーザーならばIMも手軽な連絡方法として活用しているが、一方でこのシステムに感覚的になじまないユーザーも少なくないという。

「たとえば、今のノートPCならばカメラやマイクを内蔵している機種も多いですから、IP電話を利用するのであれば画面に向かって話せば通話ができます。ヘッドセットでも十分です。しかし通話するには受話器が必要という固定観念がどうしてもありますから、基本的にはUSB接続の受話器を設置しています。また、PCや場所にではなく、人(ユーザーアカウント)に電話が来るという感覚もなかなか理解されませんね」と山野辺氏は課題を語る。

机に設置された電話機に連絡が来ることに慣れているユーザーにとって、機械にではなく人に番号がつくという感覚が馴染みづらいようだ。どのPCを利用していてもログインしているユーザーに連絡が来るということや、無線LAN環境で音声通話ができることに対する理解を得るのが、最初の課題になっている。

マイクやスピーカーが内蔵されているPCでも、現在はUSBで受話器を接続して使用しているという

電子カルテとの統合が目標

今のところ、プレゼンス情報はグループウェアの予定表と在席情報のみで表示されている。理想は電子カルテとの統合だ。グループウェアには学会などでの出張や打ち合わせ情報などが書き込まれており、診療予定や手術予定については電子カルテに記載される。双方の情報を併せて初めて、医師の現在の状況が見えてくる。しかし、国立成育医療センターでは現在のところ、電子カルテとの統合が実施されるめどは立っていないという。

「当初、統合できることを基準にSIerを選定したのですが、実際にはなかなか難しい状態です。すぐに解決することはできませんが、次のシステム更新時期である2014年には、また統合を目指した取り組みを行いたいですね。現在はまず、プレゼンスを活用するという方法を広めている段階です」と山野辺氏は語る。

現在は上層部を中心に、約100名分の設定が行われており、その半数程度が日常的にプレゼンスを活用しているという。2009年4月の利用開始から1年弱で、徐々にその便利さが広がりつつある状態だ。

強制的に利用を促すことはなく、師長会議で利用方法を伝えるなどしながら、機能をしぼって段階的に利用拡大を狙っている。「最終的にはスマートフォンを配布し、机の前にいなくともプレゼンスを活用したスムーズな連絡が可能になることを目指しています」と山野辺氏は語る。

電子カルテという完全に閉じたシステムと、オープンであるActive Directoryを接続し、双方の情報を横断的に見ることや、シングルサインオン環境を実現するにはさまざまな課題がある。そのうちの1つが、ログイン速度だ。

「検証したところ、Active Directoryから1人のユーザーがログアウトし、別のユーザーがログインするには数十秒かかります。自分のデスクで使う医師はともかく、1台のPCを共用する看護師の場合、この数十秒は待てません。仮想環境を切り替えるだけならばもっと速くできるため、そういうアプローチで解決する方法もあるかもしれませんね」と山野辺氏は将来的な活用方法を語った。

電子カルテとActive Directoryの連携にもチャレンジしている