デスクトップLinuxの雄「Ubuntu」にとって、2009年10月にリリースした「Ubuntu 9.10」は大きなマイルストーンとなる。米Microsoftの「Windows 7」と同じ月にリリースされた9.10はクラウド機能や仮想化を導入し、これまでの「追う立場」から、ユーザーに新しいコンピューティングの世界を提案する「リーダー」とポジショニングを進めることを狙う。

英Canonicalでマーケティングを担当するGerry Carr氏、ユーザーインタフェースなどのデザインチームのIain Farrel氏に、Ubuntu 9.10、ネットブックでの展望などについて話を聞いた。

インタビューは英国のCanonical本社で、Karmic Koalaのリリース直後である2009年11月に行われた。左から、Gerry Carr氏、Iain Farrel氏、右はインタビューには登場しないが、デザインチームのMat Tomaszewski氏

--10月にリリースされた最新版「Ubuntu 9.10」(Karmic Koala)の強化点について教えてください。

Carr氏: この6カ月、Mark(創業者のMark Shuttleworth氏)はMacのような優れたユーザーエクスペリエンスの提供にフォーカスしました。Ubuntuがユーザーを獲得するには、機能だけではなく、デザインで魅了する必要があると考えているからです。われわれが目指すのは、素晴らしいエクスペリエンスを提供する安価なノートPCです。

Linuxデスクトップは一般的なユーザーには使いにくいといわれてきました。5年前にデスクトップ開発に着手した際、Markは技術に精通していないユーザーでも使えるLinuxデスクトップを提供することでビックバンを起こしたいと願っていました。当時から、土台レベルでこの問題に取り組んでいます。当時と比較すると、かなりの問題 -- 95%といってもいいと思います -- を解決しました。

最新版では、ユーザーにどのようなアプリケーションを利用しているのかなどの調査を行いました。Ubuntuで利用できるアプリケーション数は2,500を上回っています。この中から10 - 12程度のアプリケーションをきちんと動くようにする、デスクトップだけではなくインターネット経由でもアクセスできるようにする(「Ubuntu One」との統合)、シングルサインオンなどにフォーカスしました。

アプリケーションがデスクトップにあるのか、クラウドにあるのかに関係なく、同じように利用する、これがコンピューティングの方向性です。われわれはユーザーをそこに導きたいと思っています。

これは、LinuxがこれまでWindowsを模倣して無償で提供するという"フォロワー"だったことを考えると、大きな転換といえます。われわれはエクスペリエンスでWindowsの先を行きたいと考えています。

Farrell氏: Ubuntuのコードはかなり安定しており、堅牢です。この上に、Windows、Mac OSの模倣に終始するのではなく、Ubuntu独自の洗練されたデザインを確立する、これがわれわれがやろうとしていることです。たとえば9.10の特徴の1つに起動時間の短縮がありますが、それだけではありません。初回起動時に視覚効果を取り入れた画面が表示され、暗い画面が次第に明るくなります。ステージに上がるようなイメージです。アイコンも改善し種類が増えていますし、パネル表示も取り入れています。

Linux OSの多くは最高かつ最新のアプリケーションを集めることにフォーカスしていますが、われわれは全体としての使いやすさに注目しています。「Firefox」と「Evolution」は別個のアプリですが、Ubuntuでは統合したエクスペリエンスを提供する。ユーザーにとって親しみや使い慣れた環境になることを目指しています。

わたしのいるデザインチームは約14人おり、最高の人材を集めています。Markはデザインチームに深く関わっており、ほぼ毎日やりとりをしています。今後もルック&フィールの改善を続けるので、期待してください。

--Ubuntuが登場して5年、Linuxデスクトップのシェアは当初の予測ほど拡大していないという意見もあります。

Carr氏: Ubuntuについていうなら、この5年でゼロから1,000万人に拡大しました。実際のところ、ユーザー数を正確にカウントするのは非常に難しく、1,000万人が妥当な数と見ています。

よく"Facebookのユーザー数が○倍"などといわれますが、OSとアプリケーションの成長は単純に比較できません。Ubuntuは、FacebookやMySpaceと競争するつもりはありません。

OSのマイグレーションは時間がかかります。ですが、(Windows 7と偶然同じタイミングになった)9.10は、Linuxに移行する理由としてみてもらいたいと思っています。リリース直後のダウンロード数には、目を見張るものがありました。全員がそのままUbuntuユーザーになるとは思いませんが、それでも非常に楽観しています。

課題はマシンです。現在、ユーザーの多くがWindowsマシンにUbuntuをインストールして使っています(これもWindowsのシェアにカウントされています)。(最初から)Ubuntuが使いたくても、まずはWindowsマシンが必要です。

現在、Dell、東芝、Hewlett-Packard、AcerなどがUbuntu搭載マシンを製造しています。中でもDellはUbuntu搭載機を40機種以上提供しており、中国で好調と聞いています。また、シャープも先日、ARMベースのスマートブックを発表しました。2010年は各社からスマートブックが登場すると予想しており、Ubuntuの活躍に期待したいところです。

Microsoftは15年近く市場を独占していますが、小売業を通じたプロモーションを通じてシェアを維持してきました。ユーザーの視点は現在、ライセンス価格からサービス価格にシフトしつつあり、ライセンスに多額を投じたくないと考えています。音楽ストリーミングなどネット経由で配信されるサービスには対価を払いたいが、"Windows 7がリリース"、と聞いても、"数百ドルを投資する価値はあるのか?"と考えています。小売業もこれに気がついています。メーカーも、利益の多くがMicrosoftに流れるモデルに反感を感じており、活発に代替案を探りはじめています。つまり、だれもが"Microsoft税"を払いたくないと感じているわけです。Windows 7はわれわれには大きなチャンスです。

Intel、それにGoogleなど大企業がオープンソースに参加し始めています。これら大企業がコードや専門知識をオープンソースコミュニティに貢献することで、オープンプラットフォームのエクスペリエンスが改善されると期待しています。ユーザーに信頼や安心を与えることにもなると思います。Linuxはホビイストという観念が変わってくるのではないでしょうか。