「政府のシステム、パブリックセンターこそ商用製品を使うべき」(Rada氏)

-- 既存のシステムが抱える問題、移行における障害とは?

私からのキーメッセージは「政府にとってのチャレンジ」だ。レガシーからモダンシステムへの移行実現には、従来のようにサイロ型に(カスタマイズされた)システムを積み上げていくのではなく、市販の商用製品を活用していくべきだと考えている。

なぜ商用製品かといえば、(カスタムメイドだと)容易にアップグレードができないため、新規システムを構築/維持するために毎回より多くのコストがかかるという結果になるからだ。理由の2つめとしては、西欧や米国では(当時のシステムを開発/維持できる)技術者がすでに現場から離れてしまっているため、古いシステムの寿命がきてしまっているからだ。そして最後の3つめがシステムの俊敏性や粒状化の問題だ。もともと効率化が考えられていなかった時代に設立したシステムのため、こうした視点が欠けてしまっている。

一方でOracleを含むITベンダらは、購入した顧客ユーザーのために継続的に新しいモジュールや機能を提供し続ける。これは一度システムを購入すればついてくる特典だ。たとえばOracleの例でいえば、先ごろ発表されたSiebelの最新バージョンやOracle 11gで提供される圧縮機能など、新バージョンの登場で新機能の導入が容易となる。

-- 欧米でのシステム需要の話があったが、海外から見た日本はどうか?

問題のひとつは新サービスの導入が景気に左右されることだ。これは日本だけの話ではないが、各国政府が予算を通した後に各省庁に割り振っていくのが一般的なスタイルだ。だが景気が悪化することで、各省庁に予算が下りていく段階で予算の締め付けが厳しくなり、結果として新サービスに割り当てられる予算がほとんどなくなってしまう。

逆に日本ならではのメリットとしては、SOAといったモダンなシステムに移行する素地が整っている点が挙げられる。たとえば英国などではメインフレームからクライアント/サーバ (C/S)への移行を経験したことで、SOAへのステップアップのハードルが上がってしまった。C/Sは分散型のため、スパゲッティ状態の複雑なプロセスになっていることが多いからだ。一方でメインフレームで構築されたプロセスはすでにSOA環境向けの最適化が行われているため、一足飛びにSOAへの移行が可能など、サイロ型のシステムのバリアーを取り除くことができる。これは日本がユニークなポジションにいるといえる。

-- 日本企業での導入事例をみる限り、SOAに対して不満を抱いている実感がある。実際にはどうなのか? 他の国での状況はどうか?

他の国でもSOAに対して同じフラストレーションが存在していると思う。そこには過度な期待がある。だがSOAは新しい技術だ。たとえば初期のダイヤルアップモデムに大きなフラストレーションを感じたユーザーは多いと思うが、それがブロードバンド普及における初期のストーリーだったといえ、SOAにも同様のことがいえるのではないだろうか。SOA(の普及)にはもう少し猶予がほしいと考えている。導入におけるライバル他社との切磋琢磨が事情を改善していくことになるだろう。

ここで、SOAに関する事例の一部を紹介しよう。オランダでは、複雑な政策を実行していくうえでSOAの活用を進めている。市民の行動を変えるために罰金制度の変更を模索していたが、10年間の評価調査で罰金制度の変更による市民行動に変化はなかったという例がある。これをさらに厳密にして、たとえば速度違反の規制を8 - 9時といった特定時間だけ強化したときの変化と制度の内容を吟味する場合、こんどは警察側の負担が大きくなる。そこで警官に銃の代わりに携帯電話を持たせ、(違反相手の罰則状況等を確認できる)ソーシャルシステムに接続して情報を取り出せる仕組みをSOAで提供することで、迅速な対応が可能になる。対応が初犯かどうかでも変わってくるからだ。現在は評価中だが、意味あるプロジェクトとして推進されている。

PDACをベースに給付金の支給をモデルにしたエンタープライズポリシー自動化の例。このように計画→実行→検証を重ねていくモデルを、カスタマイズされたシステムに落とし込むのは非常に難しい(Rada氏がOOW Tokyo 2009のセミナーで使用したスライドから)