グーグル シニア プロダクト マネージャー 及川卓也氏

既報の通り、米Googleは5月21日、Chrome 2.0の正式版を公開した。これに伴い、日本法人のグーグルは22日、同社のシニア プロダクト マネージャー 及川卓也氏による報道陣向けの説明会を開催している。本稿では、Chromeを特徴付けている「高速」「安全」「快適」の3つのポイントに沿って、2.0の新機能をいくつか紹介したい。

21日に公開されたChrome 2.0は、正式には「Google Chrome 2.0.172.28 stable」である。Chromeには「正式版: Stable Chaneel」「ベータ版: Beta Channel」「開発版: Dev Channel」という3つのチャネルが存在し、2.0に関しては今年1月に最初の開発版が公開されて以来、非常に速いペースで開発が進んできた。「開発版は"とにかく最新の機能を使いたい"というtechieなユーザに向けて提供しているチャネル。当然、動作に不安定な部分があるが、Chromeはオープンソースプロジェクトなので多くのバグ情報やクラッシュ情報を得ることができる」(及川氏)という。開発版は週に1回のペースでリリースされ、そこから得られたフィードバックはベータ版、正式版へと反映されていくしくみだ。

Chormeの歩み。1.0の正式版が登場してから約半年しか経っていない点に注目。「ブラウザは年に1回しかリリースされないもの、という常識を打ち破りたかった」(及川氏)

高速 - 競合プロダクトを凌駕する圧倒的な速さ

Chromeの最大の魅力は、そのページ読み込みの速さだ。今回のバージョンアップでさらにその高速性に磨きがかかったことになる。「V8(JavaScriptエンジン)、WebKit(レンダリングエンジン)のアップデートにより、開発版では1.5倍のパフォーマンスが得られていた」という。とくにV8の向上はめざましく、ベンチマークの結果も上々だった。複数のブラウザを使っている方は、Chrome 2.0と他ブラウザをV8 Benchmark Suiteで比較してみると、その圧倒的な速さにあらためて驚くはずだ。

JavaScriptを多用するページでは「30%増」というChrome 2.0。他ブラウザと比較すれば10倍以上の差がつくことも

安全 - 最新版こそが最も安全なバージョン

Chromeの自動更新システムは、「ユーザが気づかないうちに最新版に変わっている」(及川氏)ことすらも可能にする。もちろん明示的に新バージョンに変更することもできるが(レンチメニュー「Google Chromeの設定」→「Google Chromeについて」を選ぶと、現在使用中のバージョンが表示され、最新版に変更できる)、とくに何もしなくとも、ユーザはつねに最も安全なバージョンのブラウザ環境を利用できるということになる。

今回のバージョンアップで数多くの脆弱性が修正されたが、たとえば、悪意ある攻撃者のWebサイトを訪問した場合、Chromeにはサンドボックス機能があるため、そのサイトに仕込まれた任意のコードができることは限られる。(悪意あるコードは)サンドボックスのプロセスの中でしか実行されないので、攻撃のインパクトが弱められるのだ。

また、Chromeはタブごとに別のプロセスを見ているため、「仮に悪意のあるページを見てしまったとしても、ほかのタブに影響が出ることはない」(及川氏)という。

「WebKit関連のセキュリティ問題も、サンドボックスによって解決した」(及川氏)

快適 - 多くのユーザから吸い上げた意見を反映

「ブラウザというのは、開発者が想定しない使い方をされる」と及川氏。だからこそ、多くのフィードバックを得られるOSSでの開発スタイルが生きてくる。今回のバージョンアップで300以上のクラッシュ関連の修正が施され、安定性が向上したというが、その採用にはChromium(OSSプロジェクト名)での議論が重要な役割を果たす。

「多くのユーザが困っている機能を優先的に取り入れた。たとえばオートコンプリート機能(オートフィル: 2度以上訪れたサイトではパスワードなどを自動的に入力してくれるしくみ)などはその典型で、2.0から採用した。プレゼンなどのために画面いっぱいに表示するフルスクリーンモードも今回から実装している」(及川氏)

その他、内蔵コンポーネントとして、上述したV8、WebKitのほか、Gearsもバージョンアップしている。また、HTTPスタックも1.0まで使用していたWin HTTPから、Google独自開発したものに変更されているという。

ユーザに快適な環境を提供してこそブラウザ

「ブラウザは、インターネット初期のころの静的なWebページを読み込むだけのものから、アプリケーションプラットフォームへと変貌を遂げた」と及川氏は振り返る。一方でChrome独自の"個性"は変わらないともいう。「Chromeはこれからも"シンプル"というコンセプトを変更するつもりはないが、それ以外の部分は変更するところも多いかもしれない。現在はHTML5や、3D、オーディオへの対応をどうするかが課題。GPUの操作をブラウザからできるようにするのが目標」(及川氏)

他のブラウザとの競争については「競合があるのはいいこと」と冷静に答える。一方で、「ユーザに最適なWeb環境を届ける - それがブラウザの役割」と及川氏は断言する。だからこそ、Chromeだけでなく、どのブラウザも「Web標準をめざしていく必要がある」という。衝撃のデビューを果たしてからわずか数カ月で、主要ブラウザの一角を占めるようになったGoogle Chrome。目指すところはシェア争いよりも、Chromeを中心とした標準Web環境の確立にあるのかもしれない。

なお、及川氏は6月9日にパシフィコ横浜で開催される「Google Developer Day」において、基調講演その他でセッションに登場する。Chromeについての話題も出てくるとのことなので興味のある方はぜひ参加してみてほしい

「今後はChromeの知名度を上げるため、日本でもさまざまなマーケティング活動を行っていく」(及川氏)という。その第1弾として、Google Chromeのコミックが!! 本家のGoogle Chromeチームによるものと、日本のチームによるものの2版ある(いずれも日本語)。日本チーム版(左)はカラーで作成されており、及川氏も登場する(作画は白根ゆたんぽ氏)。Google Developer Dayなどのイベントで配布されるという