――宇宙からインターネットはどのくらい使えるのでしょうか。

野口「電子メールは、地上の第三者ともやりとりすることができますので、ほとんど地上にいるときと変わらず使うことができますし、ファイルの転送もだいぶできるようになってきましたが、残念ながらWebを自由に閲覧することはできません。

いくつか理由があって、まずは重要なコマンドや実験データなどの伝送に使う回線を確保する必要があるからです。もうひとつはセキュリティで、不特定のサイトを見てウイルス等に感染してしまうことを防ぐためです。それから、宇宙でもYouTubeとかを見始めたら仕事になりませんので、ちゃんと宇宙飛行士の仕事をしてくれ、という理由もあるかもしれません(笑)。

提供:NASA

ただ、技術革新は進んでいますので、回線の太さについてはいずれ問題にならなくなるのではないかと思います。あとセキュリティ上の問題さえ解決されれば、Webサイトを自由に見ることもできるようになるのではないでしょうか。そうなれば、例えば宇宙から地上の子供たちと話をするようなことがあるとき、前の晩に子供たちが住む街の情報を調べるといったことも可能になります。また、宇宙と地上でゲームの対戦をするといったような、地上との間で何かの共同作業を行うこともより広くできるようになると思います。

技術的には、宇宙でできることはどんどん増えてきています。むしろネックになるのはいつも人間のほうなんです。そういう新しいことをやって大丈夫なのか、安全上の問題はないのか、といったことが常に議論になります。それに対して、『これは面白いからぜひやろうよ』と声を上げる、ちゃんと『安全です』と言えるだけの手はずをする、そういうことを誰が手を挙げてやるかのほうが、実は問題なのかもしれません」

――前回はアメリカのスペースシャトル、次回はロシアのソユーズと異なる宇宙船で宇宙に向かうわけですが、エンジニアでもある野口さんから見て、それぞれどんな性格の違いがありますか。

野口「私はアメリカのスペースシャトルを先に学び、実際に搭乗もしましたので、シャトルのほうが愛着や知識の面では大きいですね。シャトルは、次々と最新の技術を採り入れてどんどん新しくなっている宇宙船ですので、非常に複雑なシステムになっています。車でイメージすると、常に最速・最強でないと気がすまない、毎回限界までチューンして最高の性能を出そうとするF1カーのようなものです。

それに対してロシアのソユーズは、もちろん新しい技術も採り入れていますが、基本的には1960年代のガガーリン飛行士のときから変わっていません。どこまで新しく変えるか、という見極めが明確という印象です。車のボンネットを開けたとき、最新の車は複雑でとても自分で修理する気にはならないと思いますが、昔の車はここがエンジン、ここがトランスミッション、ここがラジエーターと、見ればだいたいどこに何があるかが分かりましたよね。そういう、手で触ることのできるメカという意味では、ロシアの宇宙船のほうが身近な部分もあります。F1カーに対して、ラリーカーのようなものでしょうか」

――次回の宇宙ステーション滞在に向けた訓練はどのように行われているのでしょうか。

野口「中心となるのはアメリカとロシアでの訓練ですが、ドイツで訓練していた時期もありますし、日本へ帰ることもありますので、あちこち飛び回りながらの準備ですね。なぜかというと、国際宇宙ステーションには、アメリカ、ロシア、日本、ヨーロッパによる各モジュールと、カナダが作ったロボットアームが取り付けられています。それぞれの部分について、各国のインストラクターや技術者が責任をもって教えるという体制になっていますので、宇宙飛行士はそれらの国を回って訓練を受けるんです。

提供:NASA

滞在中には多くの科学実験を担当するので、それを行うための訓練がいまは中心です。また、宇宙ステーションはまだ建設の最中なので、ロボットアームの操作や船外活動のような、宇宙ステーションそのものを組み立てるための作業も訓練の中には多く含まれています」

――再び宇宙へ行くまで1年を切りましたが、「まだ1年ある」か「もう1年しかない」か、いまのお気持ちはどちらでしょうか。

野口「『まだ1年ある』という感じのほうが強いですね。前回は長い延期の末だったとはいえ、初めてということもあり「時間がない」という気持ちで追い込まれがちでしたが、今回私は先に長期滞在する若田飛行士のバックアップ役として2年半くらい一緒に訓練していますので、若田さんのお手伝いをしながら、自分のときはどうやろうかと考えたりする時間がありました。そういう意味では、割と余裕を持って1年前を迎えられたという感じです。でも、1カ月前くらいになったらバタバタして『あと1カ月しかない!』と言っていると思いますけどね(笑)」

忙しい訓練の合間にアメリカより中継でインタビューに応じてくれた野口宇宙飛行士