Winnyを巡る訴訟と著作権法の問題点

金子氏は、Winny2開発さなかの2004年5月、京都府警によって著作権違反幇助の疑いで逮捕され、2006年12月には京都地裁で罰金150万円の有罪判決が出されている。それに対し金子氏側は控訴、現在、大阪高裁での審理が進められている。金子氏の弁護団事務局長の壇俊光弁護士はこの件に関する解説のほか、著作権法などに関する問題点も含め幅広い指摘を行った。

まず壇氏は、同審理でも問題となっている、インターネットの発達が著作権者に損害を与えているかどうかに関する資料を提示。たとえば、レコード生産金額は減少を続けているが、有料音楽配信は右肩上がりに伸びており、日本音楽著作権協会(JASRAC)の使用料徴収も増収している。レコード生産金額の減少は、ユーザー側の余暇に使うお金の多様化が要因とした。さらに映画の興行収入に触れ、2006年にいったん急増後、下がっている点は、2006年公開の「世界の中心で、愛をさけぶ」の効果が大きいと説明。「(興行収入の減収と)インターネットは関係ない」と指摘し、「ネットは著作権者に損害を与えていない可能性が高く、ネット配信は利益をもたらす可能性が高い」と強調する。

その上で、法律の問題点にも言及。まず、著作権という権利は存在せず、複製権や上映権、貸与権などの権利の総称であり、さまざまな法律が入り交じっていると指摘する。刑事罰も含まれており、刑事罰では「特許法よりも重い(最高)10年」(壇氏)の懲役刑が科せられる可能性もある。さまざまな法律が入り組んで使われるため、壇氏は「できの悪いプログラムのよう」だと笑う。

さまざまな法律が入り組んだ「できの悪いプログラム」

壇弁護士はさらに法律間の不整合を指摘する。たとえば「放送」の定義については、放送に関わる法律では「直接受信されることを目的」としているのに対し、著作権法では「同時に受信されることを目的」としている。「著作権者はディレイ(遅延)が起きたら(同時受信ではないので)全部ダメ(=放送ではない)と言う」と批判する。

著作権法では、いわゆる"カラオケ法理"の適用範囲の拡大も問題になっているという。かつて、カラオケ機材を設置した店舗を巡る訴訟で、「カラオケを歌ったものが著作権を直接侵害しているが、それを設置した店側が直接の侵害者だと認定」されたケースがあった。カラオケ法理とは、この判決をもとにした考え方だ。

カラオケ法理の拡大解釈によって、単にサーバを提供したプロバイダが直接侵害者だと認定できるのだという。プロバイダ責任制限法では、プロバイダが直接侵害の場合は免責されないとしており、ユーザーが著作物をサーバに置いて公衆送信した場合、カラオケ法理によってプロバイダの責任が問われることになる。

実際、違法着うた配信サイトでも、著作権違反幇助の疑いでサーバ管理者の役員が逮捕されている。また、ある携帯電話用のオンラインストレージに対し東京地裁は、複製権と公衆送信権の侵害を認めている。このサービスは、ID/パスワードによる個人認証を経て、オンラインストレージに音楽ファイルの保存・ダウンロードができるというものだ。壇弁護士は本ケースを「最悪」と断じ、東京地裁の判断によると「おおよそのストレージサービスは使えなくなる」と指摘する。

さらに壇弁護士はダウンロード違法化や非親告罪化、民事よりも広い刑事罰の適用範囲などの問題を指摘し、日本版フェアユースに関しては「一定の危険性はあるが、ぜひとも立法化しなければならない」と話す。また壇氏は、米Googleが進めている書籍全文データベース化が日本国内の著作物にも影響が及ぶという問題に言及。日本もどうにか対応しなければならないと指摘し、「日本でも(著作物を扱う場合の)正しいビジネスモデルを作ることが大切」と話している。