最初に高音質なデータ通信があった

デジタル化した音声をネットワーク経由で伝送すること自体は、実はかなり以前から行なわれてきた。しかしそこには、「音質」と「データ量」の問題が常につきまとう。音質を良くすればするほど、データ量は増える。「通信」や「放送」は音声をリアルタイムで送信しなければならないので、データ量が多いと通信速度が追いつかない。そのため、データ量を減らすために音質を下げる必要があるのだ。音質をあまり下げずにデータ量を減らす「圧縮」という方法もあるが(「MP3」もその一つ)、圧縮や展開に時間がかかってしまうとリアルタイム伝送には間に合わない。

業務用音響設備のメーカーであるTOAでは、音声を高音質なままネットワークでリアルタイム伝送する技術を研究し、独自の「パケットオーディオ」技術の開発に成功した。一般的なインターネットプロトコルを利用して伝送するため、既存のLANやインターネット用の設備(回線や機器)を利用できるのも特徴である。

非常に劣化の少ない高音質を、ネットワーク経由でリアルタイムに伝送できる。この特性を使えば、たとえばインターネットと組み合わせて本社から日本中の支社に向けて一斉放送をすることも可能だし、すでに構築されているLANを使い、巨大ビル内のすみずみにまで放送を行なうシステムを導入することもできる。

そして、このパケットオーディオ技術を「地域の放送」に応用したのが、「IP告知放送システム」なのである。

IP告知放送システムのキホン

IP告知放送の基本的な機能は、「役場から、一般家庭や他の公共施設に放送を行なう」こと。送信側の役場には専用マイクと送信機を置き、受信側の一般家庭や公共施設には受信端末を設置する。役場で放送用マイクに向かって話せば、それぞれの家庭にある受信端末のスピーカーから音声が流れる。マイクから話すだけでなく、別途タイマーと再生機器を接続して、決まった時間に放送を流すことも可能である。

役場(役所)からの放送が、IPネットワークを通して各家庭や公共施設の受信端末から流れる(TOA資料より抜粋)

TOAのIPネットワーク対応型告知放送システムは、今年3月に東京ビッグサイトで開催されたSECURITY SHOW 2008にも出展。地震発生と連動した告知放送を実演するなどして多くの注目を集めていた

送信側で使用するにはIP告知送信機が設置され、専用のマイクや再生機器を接続して放送する。各家庭や公共施設には受信端末「NX-220HU」(写真)が置かれる。スピーカーから放送が流れるほか、機能によってはこちらから話すこともできる

ここまでは、(圧倒的に音質が良いとはいえ)従来の有線放送電話と同じだ。しかしIP告知放送には、ほかにもさまざまな利用方法が用意されている。

特定のグループだけに告知する「グループ放送」

各家庭や公共施設に置かれた受信端末は、グループ分けをしておくことができる。すると、役場から特定のグループだけに放送をすることができるのだ。たとえば「2丁目の町内会に向けてゴミの収集日の変更を伝える」とか、「小学生の児童がいる家庭向けに予防接種の日程を告知する」のようにである。

もちろん、「2丁目町内会」と「小学生の児童がいる家庭」の両方のグループに属する、といったことも可能だ(3グループまで)。そして放送側も、「1丁目町内会」+「2丁目町内会」+「消防団」のように、複数のグループに向けて放送することもできる。

この「グループ」機能を使って、グループ内での放送もできる。受信端末に専用マイクを取り付ければ、同じグループ内の端末に放送ができるのだ。たとえば町内会の会長が、「1丁目町内会」のメンバーに告知を行なうような使い方ができるわけである。地域内放送の中に、さらに小さな区域内放送システムを持てるようなものだ。

端末をグループ分けし、特定のグループだけに放送することができる。端末は、複数のグループに属することも可能だ(TOA資料より抜粋)