9月2日、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)は、「Salesforce LIVE'08」を都内で開催した。「Cloud Computing - Innovation for Success」と題されたこのイベントでは、クラウドコンピューティングにおけるSaaSアプリケーションと、PaaS(Platform as a Service)がユーザーにもたらす成功と今後の可能性についての基調講演が行われた。

米セールスフォース・ドットコム プレジデント兼チーフ カスタマー オフィサー ジム・スティール氏

基調講演は当初、米セールスフォース・ドットコムの創業者であり会長兼CEOであるマーク・ベニオフ氏が登場する予定だったが来日ができず、急遽プレジデント兼チーフ カスタマー オフィサーであるジム・スティール氏による講演となった。

スティール氏は「セールスフォースの提供するSaaSというサービスの形は、発電所で作られた電気を各家庭やオフィスで利用するようなマルチテナントアーキテクチャであり、コンピューティングモデルの革命を引き起こした。システムの複雑さはセールスフォースにまかせ、企業はイノベーションに集中することができる」と語る。

また、企業の持つテクノロジー基盤を変更せずに新たな機能を使いたい、コストのかかるアップグレードは避けたいという要望を満たすものがSaaSであるともいう。インフラの管理をユーザー企業自身が行わず、利用するユーザー数にあわせた従量課金で利用できることは、企業規模に合わせて無理なく利用できることにつながる。

シングル・テナントの抱える無駄

「セールスフォースは過去9年間で26回のメジャー・リリースを行っている。業界では幅広く革新性が認められており、売上も順調に伸びている。私たちは最初の10年間で非常に大きな成功を達成したと自負している。今後は現在のSoftware as a Serviceに加えて、Platform as a Serviceを提供して行く」とスティール氏は語る。

SaaSという形で提供されるソフトウェアが固定的なものではなく、ユーザーごとに自由なカスタマイズを加えてオリジナルのものとして利用することができるのがPaaSだ。そして、セールスフォースではクラウドコンピューティングPaaSを「Web 3.0」だとしている。

「かつてWeb1.0の革命があった。その後、Web 2.0としてコンテンツをデリバリーする時代が来た。各個人がコンテンツをインターネットに公開した。そして、クラウドコンピューティングをベースにして新しいアプリケーションを構築し、より速いスピードでバリューを提供して行くのがWeb 3.0だ」とスティール氏は語った。

セールスフォースの考えるWeb 3.0

クラウドコンピューティングで提供される新たな選択肢

すでにカスタマイズしたアプリケーションを採用している企業は多くある。ERP、財務管理、契約管理などForce.com上でビジネスに関する様々な処理を担当するアプリケーションが開発され、利用されている。すでに構築されたアプリケーションを利用することも可能だ。

Force.comで開発されたアプリケーション

モバイル連携も

セールスフォース・ドットコム アライアンス事業本部 パートナースキルプログラム 田崎純一郎氏

アプリケーションの開発、利用方法を進化させるとともに、従来アプリケーションの活用方法を広げる取り組みも行われている。その1つが、モバイル端末からの利用だ。「セールスフォースの価値を、モバイルがより高める」とアライアンス事業本部 パートナースキルプログラム 田崎純一郎氏は、セールスフォースのモバイル連携を紹介した。

au端末向けのサービスから始まったセールスフォースのモバイル連携機能は、その後複数キャリアに展開し、現在は世界的にビジネスマンに利用されているスマートフォン「BlackBerry」や、人気の新端末である「iPhone」でも利用できるようになっている。外出先でデータを閲覧できるだけでなく、データのアップロードやレポートの閲覧なども可能だ。 「未来の話ではあるが、現在Googleが開発しているモバイルデバイス向けのオープンソースOSである「Android」でもセールスフォースが利用できるようになる予定だ」と田崎氏は語り、サンプルプログラムではあるがリアルタイムにセールスフォースのデータ閲覧等ができるというデモンストレーションを行った。

「Android」でもセールスフォースが利用可能

セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏

また、日本での展開について代表取締役社長宇陀栄次氏は、「日本でもSaaSが普及してきている。4月1日の経済財政諮問会議では中小企業や地方自治体ではSaaSを積極的に利用しようとされた。今後より本格的に展開するだろう。最初はCRMやSFAといった限られた分野から展開してきたが、現在は世界に約5万社、100万人以上のユーザーがいる。様々な企業のソフトウェアが展開されるようになったことに加え、ユーザー自身がアプリケーションを構築することもできるようになった。これが新しいWeb3.0といわれる時代、あるいはクラウドコンピューティングといわれる時代の1つの本質ではないかと考えている」と補足した。