IDF Fall 2008基調講演のトリはIntelのCTO(Chief Technology Officer)、Justin Rattner氏だ。本年が同社の創立40周年であることにちなみ、「今回は、今後40年の未来の話をしたい」。同社研究所をはじめ各地で研究中の、まるでSFに出てくるかのような新技術が次々と紹介された。

Intel Senior Fellow,でVice President、Director, Corporate Technology Group Intel Chief Technology OfficerのJustin Rattner氏

Rattner氏は講演の最初に「SINGULARITY」というキーワードを提示する。ここでは「特異点」という意味で語られている。あまりピンと来ない単語だが、普通の人でもなんとなく、例えば子供の頃、夏休みにテレビの宇宙特集番組などで聞いたことがある単語かもしれない。ブラックホールの中心にあるとか言われているアレだ。

と言っても、もちろん今回はブラックホールの話題ではない。基調講演では、SFの世界などでよく出てくる「SINGULARITY」として使われていた。テクノロジーの進歩により、コンピュータ/機械の知能が人間の知能を追い越し、そのコンピュータの知能によって、今度はこれまでの人間の知能では想像もできなかった爆発的な進歩が始まる。その転換点を指して使われたていたりするキーワードだ。

ムーアの法則がそうであったように、テクノロジの進化は直線ではなく、指数関数的な曲線で進んでいくとされる。Rattner氏は「いままでの2万年分の成長でさえ、1年で成し遂げるかもしれない」と話す。同氏は、その特異点の訪れを「今後40年以内」としている。SFだと人類が機械に支配されてしまうきっかけだったりするのだが……。人間のテクノロジでは進化の終点にある特異点を目指し、様々な取り組みが行われているようだ。

「SINGULARITY」に向けて、テクノロジは指数関数的に進化している

新たなトランジスタ技術と新素材

まずはプロセッサの処理能力の向上にかかわる部分から。トランジスタの性能向上を目指して、近い将来の話として、Intelでは、基本的にはこれまで通りCMOSの領域において限界を突き詰めていくプランをとるのだという。

Intelの新規素材ロードマップのプログラム・マネージャであるMichael Garner博士がRattner氏と共に解説

例えば45nmでは、High-k/メタルゲートで"超えられないといわれていた壁"を超えたとする。次の32nmの先を見据えては、例えば平面構造のトランジスタから、電流を多く流しやすく漏れ電流が少ない3D構造のトライゲートトランジスタへの移行など、複数の研究が既に進められていると説明された。

素材についても、現在のシリコンの素子サイズからCMOSが限界となった場合のプランが紹介された。Rattner氏は「1940年代にトランジスタが生まれた時のように、新たな素材の回路が生まれるだろう」と話す。有力な素材として、カーボンナノチューブへ移行するオプションなど、現在のシリコンではない別の素材が積極的に研究されていることが紹介された。

カーボンナノチューブなどの新素材が検討されている

大学なども含めた複数の機関と協力して研究中

フォトンを用いた高速データ転送

続いてはシリコンフォトニクスの話題だ。シリコンを使った光デバイスのことで、そのシリコンレーザーによるデータ転送が研究されている。回路を小さく、低コスト化できるので応用範囲が大きく、例えばPCのチップ間のインターコネクトなどの使い道も考えられる。ちなみに、フォトンレーザーの利点は干渉を受けづらく、エネルギー効率に優れ、帯域幅が広いことだとされる。 

こちらは以前に発表したハイブリッドシリコンレーザー

今回紹介されたのはミラーを内情した新回路

今回は回路にミラーを内蔵し、3.2Gbpsのデータ転送速度を実現し、42Gbpsも目指せるという実験環境がデモンストレーションされた。Rattner氏は、フォトンレーザーの特徴から、複数の波長を同時に使うこともでき、例えば25本のレーザーを束ねれば、あわせて1Tbpsクラスのデータ転送も可能になると説明している。

実際に3.2Gbpsで転送をするデモンストレーションを披露