欧米の企業の事例と比較して、企業におけるワークライフバランス実現のあり方を解説した、東京大学社会科学研究所 准教授 水町勇一郎氏

東京労働局主催が主催する「ワーク・ライフ・バランス推進経営者セミナー(ホワイトカラー向け)」が23日に開催された。

同セミナーでは、東京大学社会科学研究所准教授の水町勇一郎氏が「なぜ、どのようにして『ワーク・ライフ・バランス』を実現するか」と題して講演を行った。労働法制の国際比較などが専門分野である水町氏は、欧米でのワークライフバランス実現の取り組み状況を紹介しながら、日本における問題解決策を論じた。

現在の日本の労働現場は、正社員と非正社員の格差が大きな問題となっている。しかし、この問題で注目すべきポイントは「非正社員の層が広がっていることにある」と水町氏は指摘する。「昔からパートタイマーなどの非正社員は存在していた。しかし、その対象は家庭の主婦が中心。それが近年、家計を支える人の非正規雇用者が増加してきている」(水町氏)というように、消費税5%への引き上げや、長引く不況、規制緩和などの社会の流れにより、1997年を境に人件費削減を理由に、雇用を正社員から非正社員へシフトした。その結果、高度化する仕事内容に少ない人員で対応しなければならない正社員層には働きすぎという問題が生じるようになり、過労死や過労自殺といった現代の病を生むことにつながった。水町氏は「正社員の働きすぎの問題の根本は、正社員と非正社員のバランスの問題。日本のこうした歪みを直さないことには、問題は解決しない」と提言する。

一方、欧米ではこうした格差問題に対して、日本よりも先進的な取り組みが行われている。ヨーロッパでは、こうした格差問題に対して法律による強制のかたちで対処している。EU圏では、EU指令という画一された意思決定制度により、加盟国は目的を達成する義務を負い、それに基づいた法律を各国で整備する。たとえばEU加盟国では、最長労働時間は週48時間とする残業規定や、終業時間から次の始業時間の間の11時間は会社で仕事をさせてはならないという休息時間規定、雇用者の正規/非正規で時給設定を別にすることはできないという平等取り扱い原則などが定められている。

また、労働規制がほとんど存在しないアメリカでは、市場による調整が図られているのが実状だ。水町氏によると「アメリカでは基本的に過労死や過労自殺は存在しない。その前に辞めてしまうから」という。アメリカでは、法で定められている差別に当たらない限り、労働者の解雇が自由な一方、労働者の転職も自由だ。つまり「アメリカでは死ぬまで働かせることはないが、日本では従業員が辞めたくてもなかなか辞められない」(水町氏)現状が問題なのだ。さらに、地域相場でパートやアルバイトなど非正規雇用者の賃金が定まる日本の労働市場に対して、欧米は業務形態による報酬設定ではないため、雇用者の正規か否かによる賃金格差は日本ほどほど広がっていないという。