MVNO(Mobile Virtual Network Operator)形式で全米に携帯電話サービスを展開する米Virgin Mobile USAは6月27日(現地時間)、同じMVNOの携帯キャリアである米Helioの買収合意を発表した。買収総額は3900万ドルで、全額Virgin Mobile株式との交換で行われる。2006年のサービスインから約2年が経過したHelioだが、加入者数は現時点で20万人未満と振るわず、今回の買収はHelio救済とともに、合併効果によるVirgin Mobileの事業強化が狙いにある。Virgin Mobileも売上低迷に悩まされており、改めてMVNOビジネスの難しさが浮き彫りになった形だ。
英Virgin Group傘下で携帯電話事業を展開するVirgin Mobileは、自社で携帯電話ネットワークを持たず、各国の携帯キャリアとパートナーを組んでMVNO形式で世界中に携帯電話サービスを展開している。Virgin Mobile USAはその米国子会社にあたる。米国内ではCDMA方式をベースに携帯電話ネットワークを構築する米Sprint Nextelとパートナーを組んでおり、現時点で500万人以上のユーザーを抱える全米最大のMVNO事業者でもある。
一方のHelioは、韓国の大手通信キャリアのSK Telecomとサービスプロバイダである米EarthLinkのジョイントベンチャーで、2005年にEarthLink創業者によって設立された。HelioもSprint Nextelのネットワークを利用しており、SK Telecomを通じて韓国の最新のCDMA対応端末をそのまま素早く米国市場に持ち込めるのを武器としていた。実際、韓Samsungが開発した「Fin」「Mysto」などの端末が投入されたほか、スライドする方向によってQWERTYキーボードとテンキーを切り替えられるモバイルWeb端末「Ocean」などユニークな端末ラインナップを揃えている。
2007年にSK TelecomがHelioへの追加投資を行ってから、Helioへの出資比率のバランスが崩れ、EarthLinkとの関係も変化し始めた。EarthLinkは本業でのリストラなどもあり、段階的にHelioからの撤退を進め、一方のSK Telecomは米国での足掛かり強化のためにさらなる追加投資にまい進している。加入者数の伸びでは苦戦するが、データ通信が主力ということもあり、携帯事業者の中ではARPU(単位ユーザーあたりの平均収入)が非常に高いことで知られている。Virgin MobileによるHelio買収は同一のMVNOパートナーということで合併しやすいというメリットに加えて、こうしたユニークな端末ラインナップやデータ通信に強いというHelioの特長をそのまま同社のビジネスに取り込むという狙いがあるとみられる。
Virgin Mobileが事業強化を図る理由としては、昨今のMVNOをとりまく厳しい事情が挙げられる。米国では昨年2007年、Helioと同時期にMVNOをサービスインしたAmp'd Mobileが破綻。同年にはWalt Disneyがサービスインからわずか1年半でDisney Mobileからの撤退を発表した。多大な初期投資なしでユニークなサービスを展開できる点が注目されたMVNOビジネスだが、実際には期待したほど既存サービスとの差別化ができず、しかも過度な価格競争によって利幅を削られたりと、数々の苦難にあえぐ形となっている。米国最大手のVirgin Mobileや差別化戦略に成功したHelioでさえも例外ではなく、背水の陣での合併というのが実情のようだ。