発売と同時に初期出荷分は一気に売り切れるのでは

「インターネットマシン」の先兵「922SH」を掲げる孫社長。写真は2008年度連結決算の会見

「iPhoneは、携帯電話機としても、ゲーム機としても、インターネットへの接続機器としても最高の機能をもっている。スクリーンへのタッチだけで使いやすい。実際に使ってみると、その快適さに驚かされる。パソコンより、インターネットを自由に利用できる。これからは、パソコンを使ってインターネットをみる頻度が低くなるかもしれない。iPhoneは正にライフスタイルを変える」。ソフトバンクの孫正義社長は同社の2008年度株主総会の席上、このように語った。

iPhoneは、iPodが携帯電話機と、インターネットを利用するための端末が融合化したものといえるが「iPodは、若者たちの音楽の聴き方を変えた。KDDIのau携帯電話も音楽配信で先行しているが、一旦、iPhoneを使うと、はるかに音質が良く、便利だとわかる」と孫社長は語り、もともとデジタル音楽プレーヤーとして世に出たiPhoneの優位性を強調した。 さらに「iPhoneは最強のゲームマシンにもなるのではないか」とする。孫社長は、先日、米アップルが開催した開発者向け会議「WWDC(Worldwide Developers Conference) 2008」での、iPhone 3Gのデモを録画したビデオを示し「iPhoneは、任天堂のゲーム機、Wii(のコントローラー)と同じように、本体を傾けたり、動かしたりして操作することができる。また、同じく同社のDSのように、スクリーンをタッチする操作性ももっており、この両者のよさを取り入れている」と話す。また、音楽ソフトを使用する際、iPhoneをあたかも楽器であるかのようにして操作できることを指摘「iPhoneはピアノに化ける。ドラムにもなる。ギターを演奏することもできる。今までの携帯電話機では考えられない」と、iPhoneの多才ぶりを熱っぽく紹介、「iPhone 3Gは、発売と同時に初期出荷分は一気に売り切れるのでは」と、強い期待感を表した。

孫社長はすでに今年2月の、同社第3四半期連結決算の発表会見で「これからはインターネットの利用は、パソコンではなく携帯電話が中心となる時代がやってくる。携帯電話はインターネットマシンになる」と断言しているが、今回「日本では、インターネットによる音楽配信サービスで、携帯電話によるダウンロ-ド数はパソコン経由のおよそ10倍になる。SNSでは、MiXiの場合、1年前までは、パソコンを介しての利用が90%を占めていたが、現在では40%になっている。携帯電話からの利用は、以前には10%程度だったが、いまや60%に達している。SNSは、代表的なインターネットサービスの一つといえるが、その利用基盤は急速に携帯電話にシフトしている」と指摘、このようなパソコンから携帯電話への潮流は「iPhoneにより爆発的に牽引される」と予想している。

iPhoneはARPUを伸長させ、収益性でも大きな力になる

iPhoneには、インターネットマシンというだけでなく、従来のパソコンがもっている側面が強くなっているところもある。iPhone向けのソフトを開発するための「iPhone SDK」が無償公開されており、「世界中で、25万人のエンジニアが、iPhoneのアプリケーションソフトをつくっている。新しいソフトはiPhone SDKから、オンラインで入手することができる」(孫社長)からだ。「iPhoneはパソコン以上に、人々に利便性をもたらし、生活に欠かせないものになる」というのが孫社長の見解だ。

iPhone 3Gの端末価格は実質的なユーザー負担額で8GBモデルは2万3,040円、16GBモデルは34,560円だ。ソフトバンクから、販売奨励金が出ているとみられる。これが同社の収益にどう影響するか。孫社長は「iPhone 3Gには、16GBのメモリを搭載したモデルがあるが、いま、これだけのデータ容量をもった携帯電話は日本にはない。最も大容量のメモリを積んだ機種がこの価格だ。圧倒的に安く、高機能だ。AT&Tの事例をみても、iPhoneユーザーのARPU(Average monthly Revenue Per Unit:1契約者あたりからの月間平均収入)は、一般ユーザーのそれの1.8倍になっている。経営の面からも、iPhoneは魅力的だ。ユーザーにも価値を提供する。これまでの端末と比べ、インターネットを10-20倍くらい利用しても、iPhoneなら対応できる。定額制であり、ユーザーにも利点が多い」と述べ、iPhone 3Gは、収益性の向上にもつながるとの見通しを示した。

孫社長は、決算発表会見などで、「2008年は携帯電話によるモバイルインターネット元年になる」と繰り返し主張してきたが、その理由として以下の3点を挙げた。「携帯電話のCPUの処理性能が大きく進展、インターネットをサクサクと閲覧していくのに適した能力をもった」「通信速度が1年ほどで375倍に伸長した」「携帯電話の表示画面の解像度が24倍になり、インターネットのサイトをみやすくなった」。「携帯電話でインターネットを利用するのに必要な技術的要素がそろった」(同)ことが、2008年をインターネット元年にするという。さらに、携帯電話とパソコンの間には、端末としての基盤の規模でも差がついている。「全世界の、パソコンの年間出荷数は2億7,000万台で、人々がパソコンの前に座るのは、平均で1日2時間といったところだ。しかし、携帯電話は24時間、手元にあり、1年で11億台出荷される」(同)。

ソフトバンクはこの10年余り、インターネット企業を標榜して事業を展開してきた。携帯電話事業にも、その流れの一環として参入してきたが、孫社長は「これまでは、電話会社が中心となってインターネットサービスを展開し、優位にあったのだが、今後は、インターネットを手がけてきた企業が携帯電話に取り組んだ方が、先進的なサービスができる、そんな時代になる。インターネットをより理解している企業が、新しい技術を提供しやすい」として、ソフトバンクは携帯電話を軸とした通信会社ではなく、インターネットサービスを提供する企業であり、携帯電話はモバイルインターネットの手段である、との姿勢を鮮明にした。