――それが産業革命以降、変わった……。

「産業革命によって、化石燃料であるとか、後に原子力とか我々自身が人間圏の内部に駆動力をもつようになった。それまで地球システムの駆動力を利用していたのが、人間圏の内部に駆動力をもち、我々の欲望を満たすためにそれを使えるようになったと」

――大きな変化ですね。

「するとね、人間圏への物やエネルギーの流量を無限に増やせるわけ。欲望のままに。その分、豊かになり、人の数だって増えるわけです。人間圏の規模を人の数で量れば、産業革命以降の人間圏は、急速に拡大し始めたわけだ。これが現代の特徴なんです」

――すると、その問題点は……。

「現在の問題は、我々が駆動力によって物やエネルギーの流れを加速してるところにあるわけです。どのくらい加速してるかというと、物の流れの速さを基準にすれば、今はおよそ10万倍です。つまり、我々の1年というのは、加速する以前の地球システムの流れの10万年分に相当するんです」

――私たちの100年は、1,000万年分に相当するわけですね。

「例え我々が人間圏をつくらなくても、1,000万年というスケールで見れば、地球環境なんて大きく変わるでしょ。だから、問題は非常に単純でね、我々がどうすればいいのかといえば、この加速するという生き方を減速させればいいわけですよ。地球システムと調和的な人間圏を作りたいのならね」

――そして、"単純"は、必ずしも"簡単"と同一ではないんですね。

「およそ700万年前に生まれた人類が、1万年ぐらい前までは絶滅せずに生き残ってきた。農耕牧畜よりは狩猟採集のほうが、はるかに地球システムと調和的なわけです」

――ところが、1万年前に人間圏をつくって生き始めると……。

「今、この人間圏が存続できるかどうかが問われていること自体ね、たった1万年で、その限界にぶつかってるわけだ。単に生き延びることだけが目的なのであれば、これは間違った選択だったかもしれない」

――一方で、それと引き換えに得たものもあったわけですね。

「豊かさを手にし、それを使って宇宙、地球、生命、人類の歴史を解読したわけです。ものすごい量の知の体系を獲得したわけ。生き延びるだけが目的の生き方であれば、決して成しえなかったことですよね」

――そこに何かがあると……。

「すると、我々とは何かとか、我々がなぜこういう選択をしたのかを問わない限り、単純に生き延びるというだけの話をしても意味はない。我々は何のためにこういう生き方を始めたのかと。その何かのために生き延びるということであれば、それには意味がある」

――仮にこのまま手をこまねいていたとして、人間圏の寿命はあとどれくらいだとお考えですか?

「あと100年ともたないんじゃないですか。先ほどから言っているように、これからの100年というのは1000万年分の変化を起こすということだから。そうなれば、人間圏の拡大に対して、地球システムから負のフィードバックがかかる」

――温暖化など、人間圏を拡大させない方向の力が加わる……。

「だから現在、地球システムにいろんなことが起こっているんです。それは人間圏の拡大を押さえ込む、地球システムからの作用なんですよ。その拡大を我々がさらに推し進めれば、どっかで一気に破綻するんです」

――このところ、地球環境問題などが大きく取り上げられ、「地球に優しい」といったフレーズに接することも多いわけですが、それについてはどうお考えですか?

「今のような人間圏を作って生きる生き方は、それ以前の地球と比較すれば地球に優しくないわけ。例えば、この100年で人口が4倍に増えたと。この増え方で増えたとすると、あと何年で人間の重さが地球の重さと等しくなるでしょうか。ちょっと計算してみると」

――その計算の結果は……。

「二千数百年です。そんなこと実際には、あり得ないですけれど。我々が異常に急速に大きくなることに対して、それを押さえ込もうとする地球システムからの反作用が働いていることが、今地球に起こってることのすべての元にあるわけです」