ユーザーの全てを監視する「灰色の鳩」ウイルス

国家コンピュータネットワーク応急技術処理協調センター(以下、ネット応急処理センター)の副主任で中国インターネット協会秘書長の黄澄清氏によると、熊猫焼香ウイルスには「目立ちたがり屋」の側面があるが、灰鴿子の性格は「姿を隠した泥棒」であると言う。

なぜなら灰鴿子はユーザーのPCに潜伏しユーザーの一切の行動を監視する。ユーザーがMSNで友人とチャットする内容などもその目から逃れることができないからだ。熊猫焼香による被害はPC自体に対する破壊にとどまるが、灰鴿子はPCを背後からコントロールする。しかも、コントロールされているPCのユーザーは、全くそんな事には気づかないというのだからたちが悪い。

北京海淀区法院(裁判所)で昨年初め、トロイの木馬を相手のPCに潜入させ、その中からヌード写真を盗み、約7万元(約150万円)を脅し取った事件の判決があった。こうした被害に遭ったネットユーザーからは、「以前は、ネットワーク上でもパスワードがあるから安全と思っていたが、知らないうちに自分のPCがテレビ番組のように誰でも見たい放題になった」などの嘆きの声が噴出している。

サイトで検索すれば、一般人も簡単に「黒客」に変身

ネット応急処理センターの統計によると、2007年上半期に、中国でトロイの木馬を埋め込まれたホストコンピュータIPの数は、2006年全体の数の21倍にもなった。その主な原因の1つに、欲望に駆られた一般人が黒客に変身するハードルが下がり続けていることが挙げられる。

筆者が試しに、中国の代表的検索エンジンである百度で、灰鴿子病毒(ウイルス)と検索してみたところ、なんと224万項目にも及ぶ検索結果が出てきた。その中には、「どうやって灰鴿子を使って肉鶏(感染PC)を捕まえるか」などのマニュアルが数多くあった。

言ってみれば、ワープロしか使えないようなパソコンの初心者でも、たった1日で黒客になれる時代となっており、まさにウイルスの拡大が生み出した「全民黒客時代」が到来したといえる。

ファイルの紛失程度ならばともかく、黒客による攻撃の標的となりやすいネットバンキングのユーザーには、脅威が増すばかりだ。2007年以来、ネットバンク口座を開設したユーザーの間でパスワードが盗まれる事件が相次ぎ、なかには1万元(約15万円)以上の財産を失った人もいる。

こうした状況下、湖南省警はネットバンクだけを狙う黒客窃盗団を逮捕。同窃盗団が抑えていた銀行口座は1,000余りもあり、その口座から合わせて40万元(約600万円)あまりを盗んでいた。中国のIT専門調査会社でWebサイト「i-research」を運営する上海艾瑞市場咨詢の調査によれば、ネットユーザーのキャッシュカードの暗証番号を盗む「網銀木馬(ネットバンク対象のトロイの木馬)」は、2006年だけで中国のネットバンクユーザーに1億元(約15億円)近くの経済損失を与えたとされている。