WirelessHD Consortiumは1月6日(現地時間)、米ネバダ州ラスベガス市内で記者会見を開き、同団体が標準化を推進している高速無線通信仕様「WirelessHD(WiHD) 1.0」を発表した。WirelessHDはデジタルビデオレコーダ(DVR)やPC、ホームサーバなどに蓄えられたHD動画データをケーブル接続なしでHDTV等で視聴するための技術仕様。高速データ転送のほか、TV側から再生装置の再生/停止/早送り等の一元制御を可能にするプロトコルが定義されている。

SiBEAM創設者の1人でWirelessHD Consortium会長のJohn Marshall氏

WirelessHD Consortium会長のJohn Marshall氏は「LG、パナソニック、NEC、SiBEAM、Samsung、ソニー、東芝ら業界リーダー7社で組織されたWirelessHD Consortiumは、当初TVとDVRなどの機器の間でのHD通信の無線化を目指していた。その後、業界からの"PCとの融合"を求めるフィードバックを受け、新たなメンバーとしてIntelを加え、より広い意味でのデジタル機器間接続を実現する最初の仕様を1年かけて発表することができた」と冒頭の挨拶でWiHD 1.0発表までの経緯を説明する。

日韓の大手家電メーカーら8社が参加するWirelessHD Consortium

WiHD 1.0では高速無線通信だけでなく、DTCPなどの著作権保護やAVCといった機器制御プロトコルも定義されている点が特徴

「WiHDは、"無圧縮データ"を"ロスなく" "HDクォリティ"で転送する。これをワイヤレスで実現するのがWiHDの特徴だが、最も重要なのは機器の相互互換性が実現されることだ。ユーザーは機器の組み合わせやケーブルの接続方法などを意識せず、簡単にコンテンツを楽しむことが可能になる」(Marshall氏)

参加メンバーには3年間の知的財産使用フリーの権利が与えられ、WiHDの早期展開に向けたプロモーションとなる

WiHD 1.0では、機器はコーディネータとステーションの2種類に分かれてそれぞれの役割を持つ。コーディネータは通信範囲内のステーションを探し出し、WVANネットワークを確立する

WiHD 1.0で定義された仕様によれば、60GHz帯を用いることで最大4Gbpsの高速通信が可能。機器間の最大距離は10メートルで、「(リビング等の)室内間での無線接続を実現するもの」(Marshall氏)になるという。また1.0で新たにアナウンスされた特徴として、DTCP(Digital Transmission Content Protection)によるコンテンツ保護やAVC(Audio Visual Control)と呼ばれる機器の制御仕様が定義されたことが挙げられる。DTCPはデジタル放送などで定義されているコンテンツの保護仕様だ。コンテンツ保存やコピーの可否など、著作権者側の意志に応じてコンテンツの拡散範囲を定義できる。一方のAVCは機器間で制御情報等のやりとりを可能にする。これにより、TV側からDVR等の再生装置の挙動をコントロールできるほか、すべての機器を一元的に操作できる「ユニバーサルリモコン」のような装置の利用が可能になる。

Marshall氏によれば、従来の無線HD通信技術では帯域確保の問題から動画クォリティを落とさざるを得ないケースが多かったが、WiHDでは画質の劣化がないのが特徴だという

WiHDの挙動について、もう少し詳しくみてみよう。WiHDでは、TV等のコンテンツを視聴する装置である「コーディネータ」と、DVRなどのコンテンツを蓄えて再生するデータソース機器の「ステーション」の2つが存在する。WiHD対応機器は互いに通信相手を探している状態であり、もしコーディネータが通信範囲内にステーションを発見すると、そこでWVANと呼ばれるネットワークを構成して、データ送受信の仕組みを確立する。これらの動作は自動的に行われ、ユーザーが意識する必要はない。ステーションがWVAN内に複数存在する場合でも問題ない。以後はユーザーがコーディネータとなった装置を操作することで、どのステーションのどのコンテンツを再生するかを自由に選択できる。今回の例ではTVがコーディネータ、DVRがステーションとなっているが、実際には機器側の対応しだいで自由にアレンジすることが可能なようだ。ステーションとしてPCやデジカメなどを指定したり、PCや他の異なるデバイスをコーディネータとして利用することもできる。メーカー側の設定しだいでは、設定メニューから特定のデバイス同士での通信のみを許可するといったセットアップも可能になる。

TV内蔵ものではなく、音声出力に外部スピーカを利用する場合、TVと再生装置間で発生する2方向通信にも対応する。この場合、ユーザーは接続手順等を気にする必要はない

WiHDでは異なる種類のさまざまな機器間での通信をサポート。コンテンツの種類もMPEG4やH.264フォーマットのファイル再生にも対応する

前述のMarshall氏によれば「すでに2つのメーカーから製品が発表されている」という。7日(現地時間)より開催されるInternational CESの展示ブース内で実際のデモストレーションが行われる予定だ。「通信距離が離れるとHDデータ転送に必要な帯域が確保できなくなる」との理由から室内のみでの利用に限定されるWiHDだが、「複雑な配線なしに複数機器間での簡単接続を実現する」点でメリットがある。HDMIを無線化するWireless HDMIと比較すると、より接続やネットワークの構成で柔軟性がある点でアドバンテージとなる。