2007年10月28日、ついにMac OS X 10.5 "Leopard"が出荷された。1つ前のメジャーリリースである10.4 "Tiger"のリリースは2005年4月のため、Mac OS Xのメジャーリリースとして2年と8カ月ぶりだ。

10.4もその前の10.3 "Panther"の間が1年と4カ月程度、それ以前はほぼ毎年のリリースだったことを考えれば、非常に間のあいたリリースである。

なぜこんなに間があいてしまったのだろう?

1つは、Mac OS X 10.0のリリースの頃は旧Mac OSの停滞で失われた時間を取り戻し、近代的なOSの持つべき必須機能、モダン技術の急速なキャッチアップが必要であった一方、10.2 "Jaguar"のリリースによりキャッチアップが完了し、さらにPanther以降のMac OS Xでは機能面性能面ともに常用に耐えるOSに成長したことが挙げられる。実際、Tigerは2年を経てもなお一線級のOSであり、すでに4年前のリリースになるPantherもまだまだ現役であり、リリースをあまり急いで出さなくてもよくなったという面もある。

また、Windows Vistaの多大なるリリースの遅れ、リリースにはこぎ着けたものの当初表明していた多数の目玉機能の搭載中止、サーバ版に至っては未だリリースされていない状況が代表するように、そもそもAppleだけではなくIT業界自体で製品リリースの速度が落ちてきている。Dog Yearと揶揄されてきた「加速された時間」が、減速されてきているという面もある。

しかし、この2年8カ月の間をおいた一番大きなポイントは、LeopardがTigerのメンテナンスリリースではない、革新的なOSであるという点ではないだろうか?

Mac OS Xの歴史をひもとくと、偶数リリースで革新的な改善を行い、奇数リリースでそれを成熟させるという傾向がある。たとえば、10.0に対する10.1はまったくもってバグフィックスリリースである。Appleもそれを認識してか、この10.1に限っては、10.0からのアップデート版パッケージを配布している。

旧Mac OSを棺桶に入れるパフォーマンスで話題(そして実際この日を境に、Mac OS 9は消えていった)となったJaguarでは、旧Mac OSが持っていてMac OS Xが持っていなかった機能がすべて搭載され、加えてBonjour(当時はRendezvousという名前で発表された)を搭載するなど機能面で充実したOSであった。ただし、性能面や安定性ではやや繊細にすぎるところがあった。

一方、Pantherは先に述べたように今もなお現役、安定性に優れ、未だに評価の高いリリースである。もちろんPantherでもFast User SwitchingやExposeなど新しい機能は搭載されたが、それはどちらかといえばUIやアプリケーションの改善など上層の方で、CoreOS(Darwinカーネルや基盤となるライブラリの集合)にはさほど大きな変更はなされていない。

その次のTigerでは、FreeBSD 5.0のコードをマージし、さらにはその利点(kqueue)を十全に生かしたlaunchdを搭載するなど、CoreOSの部分から大きく見直されている。Jaguarと同じく革新に重きを置いたリリースであった。

この、革新と安定化を交互に行うのは何もMac OS Xだけに限った話ではない(注1)。そもそもMac OS Xの源流の1つであるBSDにおいてすでに、偶数リリースで革新を、奇数リリースで安定性を高める拡充を行うということがなされていた。

では、奇数リリースのLeopardはTigerの安定版なのか? 既存のシステムをブラッシュアップした「だけ」のリリースなのか?

それは違う。Leopardもまた機能を拡充した、革新的なリリースなのだ。

2年8カ月の間メジャーリリースを出さなかったのは、このLeopardの革新性のためであろう。そして、それが可能になったのも、Tigerがあまりにも出来が良かったからだ。Tigerは拡張に重きを置いたリリースではあったが、同時に安定性も非常に高いもので「安定版」をリリースする必要がなかったのだ。

AppleはLeopardのリリースに絡め、今後のリリースの頻度を落とす、年1度のリリースはやめるということをアナウンスしているが、その意味は、つまりは「もう安定だけの版は出さない」ということ、「リリースされるOSは機能の拡充と安定性の向上を両立したものにする」ということにつきるだろう。

注1: Mac OS Xだけに限った話ではない

たとえばTCP/IPを初搭載した4.2BSDとその次の4.3BSDのように、かつてのBSDも偶数版で機能追加、奇数版で安定化をしていた