マイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部長・梅田成二氏

業務におけるWindows Mobileの利用を今後どのように拡大していくか、また今回事例として紹介されたようなシステムはビジネスにとって具体的にどういったメリットを生むのか、同社モバイル&エンベデッドデバイス本部長の梅田成二氏に話を聞いた。

まず、日本国内でのWindows Mobile搭載スマートフォンの需要だが、現状では約9割が個人によって所有されているもので、法人契約は約1割という。これはスマートフォンでない通常の携帯電話とほぼ同じ割合で、梅田氏は「Windows Mobileの場合、業務用途に本来フィットしており法人需要はもっと大きいはず。マイクロソフトでは法人の割合を30%くらいまで高めたいと考えている」と話す。

現在は、PDAや専用ターミナルなどの情報端末を使ったシステムを既に構築している企業が、システムの更新時にスマートフォンを導入することが多いという。特に、携帯電話やPHSを使って外出先から通信を行っていた場合、情報端末と通信端末を1台の機器に統合できるので、使い勝手は向上する。また、スマートフォン自体の性能・機能も向上しているので、従来であればノートPCが必要だった仕事がスマートフォンだけで可能になることもあり、この場合は持ち運び時の身体的な負担も相当軽くなる。

先に紹介されたINAXメンテナンスは、既存システムからの更新の典型例で、すでに同社が構築している独自の基幹システムと、Windows Mobileが連動するものだ。特に同社の場合、バス・トイレ・キッチンといった「今日すぐ直してくれないと困る」商品を取り扱っているだけに、サービスエンジニアがいかに早く修理依頼に対応できるかは顧客満足度に直結する。さらに、コンビニエンスストアなどで支払える振込用紙をその場で発行することで、顧客からの入金待ち時間も短縮した。また、作業報告は部品発注や請求のために使用するだけでなく、故障状況などの情報を蓄積し、サービス向上や将来の製品開発にも役立てているといい、その点でも写真入りの報告をすぐに送信できるスマートフォンは有利だ。

スマートフォンなら写真入りの作業報告も現場で送信できる(写真はデモンストレーションで紹介されたイメージ)

ただし梅田氏は、従来の資産の活用が容易な点をWindows Mobileのメリットとして挙げながらも、今後大きく伸びる余地のある分野は、USJの事例のような、メッセージングソリューションでないかと話す。

メール処理などが中心となるメッセージングの分野では、基幹系のシステムに比べて導入コストに対する業務改善効果が見えにくいが、USJの場合「事前調査の実施により、エグゼクティブの方々の貴重な時間がメールに取られていることを"理詰め"で認識されていた」(梅田氏)ため、高い満足感を得られているという。どこにいてもわずかな空いた時間でメールの確認や返信が行えるので、「結果として、本来オフィスにいる時間にすべきface to faceのコミュニケーションに多くの時間を割けるようになる。ミーティングや商談でも、移動中や直前でもオフィスにいるのと同じだけの資料にアクセスできるので、必要な情報がすべて頭に入った状態で臨むことができる」(同)。

モバイルIT機器に対する潜在的な需要はあるはずだが、情報漏洩の不安や導入効果のわかりにくさが導入をとどまらせており、Windows Mobileではその阻害要因を取り除く

もちろん、単に外からメールを見るだけなら、携帯電話用のWebメールなどを利用すれば、スマートフォンを使うまでもない。Windows MobileおよびExchange Serverを利用するメリットとしては、パスワードだけでなくデバイス自体を認証するため、さらに高いセキュリティを確保できる点、メールやスケジュールの確認はExchange ActiveSync(EAS)によって行われるので、いつどこにいてもPCのOutlookと同等のレベルで情報や仕事の管理ができる点、QWERTYキーボードによる快適な操作性や他の業務システムとの親和性などが挙げられる。

よりオープンな情報提供などで導入の敷居を下げる

導入のメリットや技術情報などをビジネスユーザー全般に提供するWebサイト「Windows Mobile コンシェルジュ」

マイクロソフトでは、Windows Mobileのあらまし、社内システムとの連携方法などの技術情報、導入事例とその効果などを掲載するWebサイト「Windows Mobile コンシェルジュ」を開設した。これまで、Windows Mobileに関する法人向けの情報は、同社やパートナー企業の営業・サポート部隊が顧客に対して個別に提供していた。しかし前述の通り、同社ではWindows Mobileの用途を特定業務からビジネス全般に拡大することをねらっており、広く一般に向けて直接発信することで、潜在的なユーザーを発掘していく。

また、例えばExchange Serverが導入されていない企業の場合、Windows Mobileを使うためだけにメールサーバーを再構築するとなると大がかりなプロジェクトになってしまうが、Exchange以外のサーバーでもWindows Mobileとの同期を可能にするサードパーティ製のシステムが出てきているほか、最近では中小企業向けにExchange Serverを利用した高機能なホスティングサービスも登場するなど、導入の敷居を下げる製品やサービスが各社から提供されるようになってきた。

これまで、PDAの延長としてとらえられることの多かったWindows Mobile搭載スマートフォンだが、「法人需要30%」に向けて、PCに次ぐ汎用ビジネスツールとしての展開が始まろうとしている。