文部科学省の情報公開の一環として、6月13日に、次世代スーパーコンピュータ概念設計の評価報告書が公開された。

この次世代スーパーコンピュータの開発は、平成22年度末(2011年3月末)に世界最高レベルのスーパーコンピュータを開発し、2011年6月のTop500で、地球シミュレータが奪われた1位の座を奪還しようというものである。もちろん、Top500で1位になること自体が目的ではなく、現在のスパコンでは解けない、ナノテクノロジーやライフサイエンスのグランドチャレンジ問題を解き、科学技術の発展を押し進めることが目的であるが、やはり、分かり易い目標は重要である。

この次世代スパコンの開発は、文部科学省が推進するものであるが、実際の開発は理化学研究所(理研)に委託されている。そして、理研はノーベル賞科学者である野依理事長を本部長とする次世代スーパーコンピュータ開発実施本部を作り、昨年、9月から富士通、日本電気、日立と概念設計を行ってきた。当時の理研の発表によると、理研の主導の下に、1案を富士通、もう1案をNEC、日立の連合チームが検討することになっている。

その概念設計が終了したので、文部科学省の次世代スーパーコンピュータ概念設計評価作業部会が評価を行い、その結果が公表されたものである。なお、この作業部会の主査は、中央大学の土居教授が務め、委員としては、東大、京大などの計算機センター長などの斯界の権威が顔を揃えている。次の図に、評価報告書の参考資料から、システムの概要の図を示す。

次世代スパコンシステムの概要。(出典:評価報告の参考資料)

この報告書によると、設計されたシステムは、スカラ型とベクトル型の計算システムを複合したシステムであり、Linpack性能として10ペタFlopsを超える設計となっている。そして、当然、Linpackだけではなく、各種のアプリケーションの実行においても世界最高性能を実現することを狙っている。そして、45nm半導体テクノロジや光インターコネクトなどの先端技術を用いて、画期的な省電力と省スペースを実現する。

当初は、富士通とNEC、日立連合の2案のうちの良いほうを選択するというニュアンスの話もあったが、結果として、両案を折衷するような複合システムとなった。米国のローレンスリバモア国立研究所は、予算を分割して、BlueGene/LとASC Purpleの2種のシステムを導入したし、オークリッジ国立研究所は大規模なベクトル型のCRAY X1とOpteronベースのスカラ型のCRAY XT3の両方のシステムを持っており、アプリケーションに依ってそれぞれ向き、不向きがあるので2種類の計算システムを持つことは、不思議ではない。

次世代スパコンシステムの特徴。スカラとベクトルの両演算部の最適な使い分けと両方の同時使用による複雑系のシミュレーションが特徴であるとする。(出典:評価報告の参考資料)

そして、次期システムの特徴は、アプリケーションによりスカラとベクトルの適した方が選べるという点と、両者の同時使用による複雑系のシミュレーションと説明されている。また、一体的なジョブ管理により、ユーザは両方の演算部を意識することなく最適な環境を利用することが可能となっている。