90年代、半導体露光装置業界で圧倒的なシェアを握っていたのはニコンとキヤノンであった。Gartnerの2007年4月の発表資料によると、1996年にはニコンが5割弱、キヤノンが2割5分ほどのシェアを獲得しており、この2社で7割ものシェアを握っていた。このときオランダのASMLのシェアは2割。ニコンとキヤノンの後塵を拝していた。ところがそれから10年後の2006年、ASMLのシェアは6割強に達し、名実ともに世界一の半導体露光装置メーカーとしての地位を確立した。10年前とは様相が一変している半導体露光装置業界。現在のリーディングカンパニーであるASMLに、その強さの秘密と今後の展開について取材した。

ASMLの半導体リソグラフィー装置

ASMLのクリーンルーム

露光装置シェア躍進の鍵 - 「デュアルウェハー」と「液浸」

ASML BVはオランダのPHILIPSから1984年に分社独立、本社はオランダのフェルトホーヘンにある。従業員数は全世界で約6000名(2007年4月現在)、ヨーロッパ、北米、アジアなど14ヶ国に多数の拠点を持つ国際企業だ。同社の売り上げは急激に伸びており、2005年度は25億2900万ユーロの売り上げと、3億1100万ユーロの純利益を出したが、翌2006年度には35億9700万ユーロの売り上げと、6億2500万ユーロの純利益を出している。2006年度の露光装置の出荷台数は266台に達し、売り上げシェアは63%に達した。対するニコンは23%、キヤノンは14%の売り上げシェアである。

ASMLのマーケットシェアの伸び

半導体露光装置メーカーシェアの推移。青がASML、黄がニコン、赤がキヤノン。Gartner調べ。

何故このような躍進を実現したのか。この間、まずASMLは2000年に独自の「TWINSCAN」プラットフォームを発表している。これは、1台の露光装置内に、同時に2つのウェハを扱う「デュアル・ウェハー・ステージ・システム」を装備するものだ。通常は1つの露光装置は1つのウェハを扱い、ステージ上のウェハについて先に計測を行い、続いて露光を行うのだが、この装置は、1つのウェハが露光過程にあるときに、装置内にあるもう一つのウェハにおいて露光に先立つ計測を行い、ウェハ処理の並列化を実現した。これにより、大幅に処理能力を高めることができ、また十分な時間を取って精度の高い計測を行うことができるようになった。これは業界に先駆けて導入した機能で、現在でも競合他社に対して優位にあるという。次にASMLは、業界に先駆けて液浸露光装置を開発した。2004年8月、ASML製の液浸露光装置「TWINSCAN AT:1150i」のα機がニューヨーク州立大学Albany NanoTechに納品され、その後続々と同社製の液浸露光装置が出荷されていったのだ。

ASML「デュアル・ウェハー・ステージ・システム」の動作フロー

この2つの新技術の市場投入と、同社のシェア躍進は軌を一にしている。2000年、2001年においてニコン、キヤノンと3つどもえのシェア争いを演じたあと、2002年には混戦を抜けて一挙に50%強のシェアを獲得、その後同社はトップシェアを譲らず現在に至るのである。