中国市場を重視するその姿勢とは裏腹に、ソニー製品の中国市場における競争力は後方から支持を得られないでいる。ソニーは中国に設計プロジェクトグループを設立し、中国人エンジニアが設計した製品が全世界でヒットすることを期待してはいるが、それも今のところは片思いに過ぎない。中国消費者が目にした事実は、ノートPCからデジタルカメラ、さらにはテレビまで、ソニーの問題製品が後を絶たないということだ。設計の現地化は、品質の完璧さを保証するものではない。ソニー製品は、まず品質面において、中国消費者からの信頼を取り戻さなければならなくなっている。

要するに、現在の中国は80年代の中国ではないのだ。20年前、中国は計画経済の制約を受け、商品が極度に不足しており、ソニーを初めとする日本企業は欧米企業に先駆けて中国へ進出したから、いとも簡単に市場で勝利することができた。しかし、現在はそうは行かない。ソニーは欧米や韓国企業と、中国市場で大競争を繰り広げねばならず、また、昔の優位性も希薄になってきている。

中国人の消費観念も、根本的な変化をきたした。20年前は、商品の選択肢が少なく、消費者の消費心理も未熟だった。慢性的な商品不足が、選択する際の油断を引き起こしていた。1988年の奇妙な買いあさりブームは、まだ中国人の脳裏に残っているはずだ。しかし今、品揃えは圧倒的に豊富になり、ありとあらゆる製品が市場になだれこんでいる。とりわけ電子製品は、多くの製品でゼロ関税となった。中国市場においても、多くの新製品が米国や日本と殆ど同時に発売されるようになってきた。当然、中国の消費者はますます商品選好が厳しくなり、多様化してきている。ソニーに限らず、どのような製品で、気の変わりやすい中国消費者のニーズに応えていくかが大きな課題となっているのだ。

中国市場は、とうの昔にソニーだけの市場ではなくなった。もちろんソニーも、いまや単なる日本企業でなくなり、グローバル化された多国籍企業である。世界の企業オリンピックが繰り広げられる中国市場で勝つための課題はなにか。ソニーに突きつけられたこの課題は、じつは世界中のグローバル企業共通の課題なのであろう。