QoSが特徴のPLCモデム

ひかりoneで新たに提供されるPLCは、家庭内の電力線を部屋間の既設接続回線として流用するものだ。実は、通信速度に関しては、同軸ケーブル・モデムが実効約90Mbpsが最大なのに対し、PLCでは実効最大約85Mbpsであり、速度に関してはやや同軸ケーブルが有利なのだが、TVのアンテナ配線を利用することに起因する制約がある。一戸建てでは問題にならないが、マンションの場合は配線自体が共用のため、他の住戸に信号が伝搬してしまうのだ。このため、同軸ケーブル・モデムはマンション内では使用できないことになっている。TVアンテナとして使う場合、受信した映像信号を全戸に配布するために使用するには全戸共用で全く問題ないことになるが、宅内の通信回線として利用するには難があるということになる。一方、PLCが利用する電力線は、各戸ごとに配電盤が設置されており、これを越えて信号が伝搬することがないので、マンション内でも問題なく利用できるという。

都築氏によれば、実現のための技術的な障害という点では同軸ケーブル・モデムのほうが実現が容易であり、提供も先行したという。一方、PLCに関してはアマチュア無線との干渉の問題や、マンション内でも利用されていることが三層交流の問題など、対応すべき技術要素がいくつかあったため、当初の予定よりも遅れて6月からのサービス開始となった。

なお、ひかりoneで利用されるPLCモデムは市販品の流用というわけではなく、同社の仕様に基づいて設計された専用品だという。その最大の違いは、QoS(Quality of Service)の実現にある。QoSは、通信の内容に応じてそれぞれサービスレベルを保証するための仕組みで、エンタープライズ系ネットワークではVoIPによるIP電話など、リアルタイム系メディアの伝送や、ミッションクリティカルな業務アプリケーションの通信帯域を確保するといった目的で利用されている。コンシューマ市場ではまだ利用例は多くはないが、ひかりoneではトリプルプレイの一環として映像配信サービスを手がけていることから、この機能が必須となったという。

映像配信サービスでは、1チャンネルの視聴に要する通信帯域は約4~8Mbps程度で、HD品質だと10Mbps程度に達するという。PLCモデムの実効速度が最大で約85Mbpsなので、能力的には充分余裕があるが、映像配信では速度の変動や遅延があると、映像の品質劣化としてすぐに視聴者に分かってしまうという問題がある。このため、インターネット・アクセスで大容量のデータ転送などを実行しても、映像配信中は映像配信の帯域を確実に確保できるよう、QoSに対応する必要があったという。

サービスとして提供する以上当然の配慮とはいえ、実際にQoS機能までを作り込んだデバイスはまだ市場には出回っておらず、この点もひかりoneの差別化要素となっているといってよいだろう。このほか、無線LAN接続でも対応機器のアップデートが行なわれており、従来は有線のみのサポートだったSTBの接続も無線LAN経由で行なうことができるようになっている。サービスの品質を維持しつつ、使いやすい宅内配線の選択肢を豊富に揃えるというのがひかりoneのユーザーから見ても分かりやすい顕著な特徴だといえるだろう。

KDDIのホームネットワークソリューション「無線LAN」「高速PLCモデム」「同軸ケーブルモデム」

KDDIのPLCモデム

「ひかりone」の「one」

都築氏は、「ひかりoneの"one"は業界内でシェアトップといった量的な話ではなく、ユーザー1人1人に向けて一番よいサービスを提供していきたいという意志の表明」だという。ブロードバンド接続は普及しつつあるものの、宅内配線で不便を感じているユーザーも少なくないと思われる。一戸建てならまだ自由になる部分が多いが、マンションの場合は配線の変更や追加も簡単ではなく、かつ木造住宅に比べると無線LANを利用する際にも不利になる。こうした不便があることを見据えて適切な選択肢を揃え、かつ単に新技術を採用するだけでなく、提供するネットワークサービスの品質を維持するためにQoSの仕組みを作り込むなど、きめ細かい配慮が見られることから「サービスで一番」という目標が相応の努力の裏付けのあってのことだということがよく分かる。

電力コンセントは各部屋に配置されていることが多く、今後一般家電などのネットワーク化を考える上での有力候補ともいわれている。新しい規格なだけで技術的な適合性など、ユーザー側にもよく分からない部分があるとは思われるが、レンタルというかたちで手軽に利用できるようになったことは多くのユーザーにとって歓迎できるものだろう。