SoC Updateその1

今回のErik Kim氏の基調講演では、2つのSoC(System On a Chip)を現在Intelが開発していることが明らかにされた。まず一つ目が、上のレポートの最後にあるAV向けプラットフォームのものである。まずはこれについてレポートしたい。

実は昔から、Intelは様々なIA(Internet Appliance)機器向けにSolutionを提供してきていた。Photo23~26は、やや古いがCOMPUTEX TAIPEI 2005においてIntelのブースで展示されていたものだ。2005年といえば、デスクトップ向けには既にSmithfieldコアのPentium Dがリリースされ、モバイル向けは既にDothanで全面的に刷新されていた時期。いくら価格面で厳しいからといって、Pentium IIIベースのMobile Celeronはないだろうよ、という気もするのだが、このあたりがIntelの当時の取り組みの姿勢を端的に示していたといっても過言ではない。デスクトップ向けCPUはTDPが高すぎ、とてもではないがCE向けに使える代物ではない。なので普通に考えればDothanを投入すべきなのだろうが、こちらは低消費電力と高性能を謳い文句に、高いASP(Average Sales Prise)をつけても売れていた時期であり、CE向けに必要とされる低価格・低消費電力のニーズにはまるでそぐわなかった。CEのマーケットの場合、構成は先のアクセラレータとちょっと事情が似ている。処理負荷の高い、例えばMPEG-2のデコードとかは専用回路で処理してしまうから、CPUが処理すべきことは各アクセラレータの起動とメニューのGUI処理程度で、大して負荷が掛からない。これがPCだと、将来の機能追加などを見越して処理性能を高めに取るというアプローチもあるのだろうが、CE向けはこうした事を原則として考える必要が無い。

Photo23:MSN*TV2。Mobile Celeron 733MHzにIntel 830M4の組み合わせ。Intel 830M4というのは、Intel 830MにICH4を接続できるように変更した、CE向けに特化した製品で、2004年に発売された。

Photo24:SamsungのLet's KT。こちらはMobile CeleronにIntel 815の組み合わせ。

Photo25:IPoX。こちらも構成は同様。

Photo26:LungのHwa。CPUがMobile Celeron 1.26GHzとなっている。ちなみにIntel 830M4の上位モデルにIntel 854という製品もある。

もう一つ厄介なのは、最近のIntelのチップセットの場合、(デスクトップの機能増大に合わせて)高機能になった結果、価格も高ければチップセットの面積も大きいということで、特にICHが異様に大きい事は実装上のネックとなっていた。このあたりはIntelも良くわかっており、だからこそこちらのレポートにあるIECFF(これはその後、Intel ECX Form Factorとして標準化された)なんてものを作り出した訳であるが、Embedded全般はともかくCEマーケットにはあまり普及したとは言えない。理由の一つは、全般的に性能が高すぎ、コストも高すぎることだ。実のところこのマーケットで大きく躍進しているのがEdenプラットフォームことEPIAシリーズを提供するVIA Technologies, Inc.である。Photo24あるいは26のサイズの筐体ならMini-ITXの製品が楽に入るし、Photo23あるいは25のサイズだって頑張れば可能だ。苦しければEPIA NシリーズのNano-ITXに切り替えれば良い。Intelは自身でボードを提供せず、あくまでコンポーネントとデザインガイドのみの提供だから、結局ベンダーはボードまで起こす手間が必要とされるわけで、これが開発のTAT短縮に繋がらないのも不満とされる理由の一つだったようだ。

「だったら別にIA(Intel Architecture)でなくても」という声もあろうが、実はIAがトータルで開発コストが一番抑えられるというのが厳然たる事実だ。なにせ使い慣れた環境で開発できる(さる台湾のSTBの場合、Windows Embeddedの上にVisual Basic(!)で作ったプログラムで動いていた)から、開発者を集めるのも容易だ。最近だとブラウザとか様々な種類のデコーダを必要とする場合もあるが、IA-32以外だとしばしば有償で移植となるブラウザもIA-32なら無償で入手できる。様々なデコーダ類も、IA-32だと無償というケースは多い。PDA以下のサイズとなるとIA-32を使うケースは殆ど無いようだが、このクラスに関して言えばIA-32がかなり大きなシェアを持っているから、ここにがっちり入り込みたいと考えているようだ。

こうした背景を考えると、2008年に投入されるIA SoC(Photo27)は実に理にかなった選択と言えることが判る。実装面積は大幅に縮小されるし、昨今の微細化したプロセス(グラフィックが現在90nmプロセスを使って製造されていることを考えると、こちらも90nmプロセスの製造と思われるが、あるいは相対的に空きがでる65nmプロセスかもしれない)を使えばコスト面でも有利だろう。なにしろCPUパワーが要らないから、DothanあるいはYonah-1Mあたりのコアでもお釣りが来る程度で、動作周波数もかなり抑えられるから、消費電力も低めに抑えられる。チップとデザインガイドのみの提供になりそうなのは相変わらずだが、これは全体の方針がこうなっている以上仕方が無いということだろう。実際、VIAのモデルの場合VIAが一人勝ちという構図になってしまっており、サードパーティーが付いてこなくなってきている。Embeddedの場合、単にボードを提供するだけでは駄目で、顧客ニーズに合わせたコンサルテーションといったSolution Businessが必須であり、Intelが自身ではこうした能力を持たず、サードパーティー頼りであることを考えると、この方針は仕方ないのだろう。

Photo27:基調講演のプレゼンテーションより。実際、これだけあれば外部回路が一切要らないから、実装面積はVIAのLuke CoreFusionよりも小さくなる(CoreFusionはSouthBridgeが別に必要だし、CoreFusionそのものが単にCPUとノースブリッジのSIPだから、パッケージ面積自体は結構デカい)。

ただ幸い(?)な事に、以前に比べるとHDTVの普及などで扱うべきデータ量が増える傾向にあり、相対的に高い性能が求められるようになっているから、こうしたトップエンド向けはVIAを含めて割と空白に近い状態になっている。なので、まずはこのトップエンド向けを抑えることで橋頭堡を確立し、そこからシェアを広げることを狙っているようだ(Photo28)。

Photo28:要するにVIAのEPIAシリーズのマーケットシェアを、より安価かつ小さくできるSolutionで奪い取る、という宣言でもある。とりあえずは今のEPIAがやや苦手としているHDTVのマーケットが最初の戦場であろう。次がConnected Media Player、最後が一番単機能(つまり価格で勝負になりやすい)なSTBということか。

実はこうした方針を立てたのはIntelが初めてではない。AMDは2005年頃から"x86 Everywhere"をキーワードに、Geodeシリーズのラインナップを拡充している。こちらはもともとNSで開発したGeode GXシリーズに加え、新たに追加したGeode LX(これもSoCだ)を武器にまさしくこのマーケットを狙ったが、正直なところ現状ではこれが上手く行っているとは言えない。この理由はいくつかあるが、このマーケットにIntelはいわば"IA Everywhere"として改めて攻める形になるわけで、果たしてAMDと同じ轍を踏まずに成功できるか注目したいところだ。